保健室のベッドの上で、ぼんやりと窓の外に視線を馳せる。
先程までありえない程の熱量をこちらに照射していた太陽は、間も無く山の端に沈みきろうとしていた。
そうしてまた他の誰かを照らすのだろうと思いながら、チラチラと眩しくチラつく光の残滓に目を細めた。
「あら、もう起きたのかしら。」
シャッとかろやかな音と共に、窓と正対する位置にあるカーテンが引かれた。
ゆるりと動いて起き上がろうとするも、それは窘められ、細い指によって再びゆっくりとベッドの中へ沈められる。
丁寧に磨かれた素色の爪が、太陽の残滓を弾いて薄く輝く。
「アトワイト……。」
そうか、彼女は保険委員長だったか。
彼女の手のひらがそっと額に降って来る。
しっとりと吸い付くように載せられたそれは、もう夏に差しかかろうというのに何処か有機的な冷たさを有していた。
「熱中症だそうよ。」
私の調子をみていた手のひらの重みがふっと消える。
ああ、そう言えば、それでディムロスに運ばれてきたような記憶がある。
そこからずっと寝ていたのだろうか。
旋毛を中心とした円を描くような軌道で首を動かして、じっと時計を見遣った。
午後七時四十八分。
愕然とする。
そうだ、夏場の日の入りは随分と遅いのだ。
「アトワイト……ごめん、ずっと待っててくれてたの?」
よくよく見渡すと、室内は随分と薄暗さを増してきていた。
アトワイトは気にしていないとでも言うように小さく笑って言った。
「電気、点けましょうか?」
ゆるゆると首を振って答える。
人工灯で何もかもを照らしてしまうのは、何だか惜しくて仕方がない。
「ふふ、それも素敵よね。」
何となく、言いたい事を理解してくれているのだろう。
アトワイトは優しげな手付きで、先程首を振った時にかかった髪をそっと梳いてくれた。
アトワイトの手のひらがさらさらと髪を掻き分ける。
冷たくて、柔らかくて、酷く心地よかった。
気を良くしたのか、アトワイトはベッドに上半身を乗り上げて、私の唇にキスを落とした。
驚く間も無く唇を舐め上げられる。
「かわいい。」
クスリと笑うアトワイトに、微笑んでみせる。
するともう一度キスを落とされた。
そのまま視界の端で、僅かばかりに残された太陽が消えていくのが見えた。
黒々とした山の逆光に、薄く青い夜色が広がっていた。
ああ、タイムリミットだ。
アトワイトは体を起こすと、デスクの上に畳んで置いてあった学ランをこちらへ投げてくれた。
もそもそとそれを羽織りながらもう一度山の端へと視線を投げかける。
ああ、あの稜線の何と艶めかしい事だろう。
二人分の通学鞄を持ったまま、私が着替え終わるのを待っている彼女の笑みが、何故だかそれと重なった。
アトカー^▽^
アトワイトにはされるがままなカーレル^^^^^