じりじりと、全てのものを焦がすように輝く真夏の太陽。
アスファルトは、その熱光線を容赦なく照り返す。

「うう、暑い……。」

思わず呻き声が漏れた。 じっとりと滲む汗で、肌に張り付くシャツが鬱陶しい。
何故、制服と言うのはこうも暑苦しい造りなのだろう。

「でも、ホントに暑いよね……。」
「全くだな……。」

流石の兄貴も参っているらしく、襟に指を引っ掛けるとパタパタと空気をシャツと肌の隙間へ送り込んでいた。
ディムロスもそれに同意して、手で庇を作りながら眩しい太陽を見上げた。

「こんなに暑いと、勉強にも身が入らないだろ……。」

これから、七月考査に向けての勉強会だというのに、この暑さはいけない。
集中力だとか、やる気だとか、そういったものを根こそぎ奪っていく。

「ディムロスの家で、クーラーつけて勉強会に一票。」
「あー、オレも賛成。」

兄貴が提案する。
オレもそれに乗ると、ディムロスは微妙な顔を浮かべつつ頷いた。

「それは構わんが……、何故わざわざ私の家に?」

こういう時はまず他人の家ではなく自分の家でやろうと提案するものだ。
それを不思議に思ったのだろう。
首を傾げるディムロスに兄貴はにこりと笑って言った。

「勿論、私がディムロスの部屋ってのに入ってみたいからだよ。」
「…………。」

ディムロスが複雑そうな表情を浮かべる。

「何、見られちゃ不味いもんでも置いてんの?」
「見られて不味いもの……か……。」
「エロ本とか。」

言うと、ディムロスが真っ赤になって眉間を寄せた。

「そんなもの、ある訳がないだろう……!」
「ないの? そりゃ不健全だな……。」

不健全と言われてディムロスが言葉に詰まる。
どうにもこういう話題は苦手なようだ。

「で、何が見られちゃ不味いわけ?」

助け舟のつもりで、別の話題に切り替える。

「それは、そうだな……日記とか……。」

探そう。

きっと兄貴と同じタイミングで同じ事を考えたに違いない。
チラリと視線を遣ると、兄貴もにやりと人の悪い顔で笑った。
こんな面白いものを見逃す手はない。

「……言っておくが、部屋にはあげんぞ。」
「えー!」

兄貴が不満の声をあげる。

「お前達は絶対に日記を探すだろう……!」

行動パターンが読めるようになってきたらしい。
兄貴は残念そうな顔をして溜め息を吐いた。

「信用ないなあ。」
「では、探さないのか?」
「探すよ。当たり前じゃないか。」

あっさりと言い切った兄貴にディムロスが深く溜め息を吐いた。
それを宥めるように口を開く。

「まあまあ、取り敢えずディムロスんち行こーぜ。暑くって仕方ねーよ。」
「……それは、確かにそうだな。」

ディムロスもこの熱気にうんざりしているようだ。
こうしてアスファルトの照り返しを一身に受けながら、三人でディムロスの家へと急ぐのだった。





「まあ、上がれ。」
「おじゃましまーす。」
「おじゃまします。」

ディムロスに促されて家へと上がる。
廊下の突き当たりのリビングに通されて、部屋の中央にあるテーブルにつく。
ディムロスは部屋に篭った熱気に顔を顰めると、冷房のスイッチを入れた。

「ちょっと待っていてくれ。」

そう言ってディムロスが部屋を出る。
兄貴と二人で残されて、ぼんやりとリビングを眺める。
効きはじめた冷房の風が心地よかった。

「これで良かっただろうか。」

戻って来たディムロスが肩で扉を開く。
両手が塞がっていた為だろう。
ディムロスの持つトレイに乗っていたのは三人分のグラスと、氷水の入ったピッチャーと、青い水玉の紙に包まれた瓶。

「おー、カルピス。」
「飲めるか?」
「大丈夫だよ。」

入りやすいように扉を開いてやりながら言うと、ディムロスはテーブルの真ん中にトレイを置いた。
丁寧な手付きで紙包みを開いて、三人分を注いでゆく。

「カルピスなんて久しぶりに見たなあ。」
「ホントだね、家ではあんまり飲まないし。」

ペットボトルのカルピスなら稀に飲むが、瓶のカルピスはあまりお目にかからないような気がする。
それこそお中元だのお歳暮の季節にちらりと見るくらいだ。

「まあ、貰い物だがな。」

そんな事を思っていると、ディムロスもそう呟いた。
やはり何処でも贈答品の類として扱われるらしい。

「ほら。」

ディムロスにグラスを手渡される。
氷の浮いたグラスが目にも手触りにも涼やかで心地いい。
乳白色の液体にひとくち口をつける。

つめたい。
あまい。

「あー、もう勉強したくねー。」
「何の為に来たか分かってるのかお前は……。」

ディムロスが呆れたように呟く。

「だって、テスト勉強なんかしなくたって点数変わらねーしさあ。」
「お前はそうかもしれんが、私は違う。大体テスト期間なのだからテストに向けて勉強をするのが道理だろう。」
「ディムロスは真面目だね。」

高校のテストなんて適当にやっていればいいのだ。
そもそも分からない問題なんてものが出てきた試しがないのだから。

「お前達が不真面目なんじゃないのか……?」
「まあ、私たちはやらなくても出来るからね。」

下手をすれば嫌味になりかねない事をあっさりと兄貴は宣った。
ディムロスが深く溜め息を吐く。

「何処から来るのだ、その自信は……。」

やれやれと呆れながら、ディムロスもカルピスに口をつける。

「ところで、白い液体を飲むのってエロいよね。」

ディムロスがカルピスを噴き出した。
ちなみにオレも噴き出した。

「ちょ……兄貴、何言ってんの……!?」

げほげほと咳き込みながら言うと、兄貴はにこりと微笑んでオレの背後を指差した。

「ほら、結構エロいと思うんだけどなあ。」

見ると、噴き出したカルピスを何で拭こうかと戸惑っているディムロスが居た。

青と白のコントラスト。
ああ、カルピスのパッケージだなと、冷房の効いた部屋でぼんやりと考えた。










何だコレ……
うん、上手くオチなかったんです……
結局下ネタに逃げてしまった……くやしい……!

さて、ハロルドは現実逃避してますが、自分もカルピスまみれだという事に一体いつ気付くのでしょうね!^▽^