「ディムロスー、まだー?」

ディムロスの部屋から、洗面へと声をかける。
歯ブラシを銜えたままのディムロスは扉から顔だけを覗かせると、焦った表情で掌を大きく広げる。
あと五分という事だろう。

「いーち、にーい……。」

カウントを始めると、ディムロスは慌てて洗面に戻っていった。

「全く……。出かける約束忘れるなんて信じられないなあ。」

ベッドにダイブして、ごろりと一回転する。

普段から几帳面で生真面目なディムロスが約束事を忘れるのは珍しい。
ここ数日は相当に忙しかったのだろう。

見ると、ベッドの上に取り込んだ洗濯物が畳まれもせずに置きっ放しになっている。

「おや?」

これは本当に珍しい事だ。
まあ、約束の時刻に玄関チャイムを押しても出てこなかったくらいなのだから仕方がないだろう。
別にそんな事で怒るような間柄ではないのを知っていて、勝手に上がりこみ、ベッドで死んだように眠っているディムロスを叩き起こしたのだ。

すまないと謝るディムロスに仕度を急かさせて、私はわざとらしいポーズで溜め息を零す。
寝起きの呆けた表情と、時間を示した時の青ざめた表情は滅多にお目にかかれないものだったので、実は少し得をした気分だったりするのだがそれは黙っておく事にする。

「仕方がないなあ……。」

畳んでおいてやろうと、服を手に取る。
家事はあまり得意ではないが、服を畳むくらいの事は私にだって出来る筈だ。

トレーナーを畳む。
少し皺くちゃによれてしまった。
抽斗には仕舞い難かろうが、まあディムロスがどうにかするだろう。

次の服を手に取る。

「ジーンズか。」

ブルーの布地のジーンズ。
こういうものは厚手だから、案外畳みやすいのだ。
ジーンズをまっすぐに伸ばそうとした所で、ふとある事を思いつく。

「私が穿いたらどうなるかな。」

ディムロスは背が高い割に、そこまで体つきががっしりとしている訳ではない。
私とくらべてもワンサイズも変わらないのではないだろうか。

今穿いているジーンズをサッと脱ぐと、足を通す。

「あれー?」

ウエストが少し緩い。
それは分かる。
しかし、何故……。

「何でだろう。」

何故、足が足りていないのだろう。

「4cmしか違わない筈なんだけどな……。」

私とディムロスの身長は4cmしか変わらなかった筈だ。
しかしこのジーンズの裾は、どうみても4cm以上の余りがある。
これは一体どういう事だ。

「すまない、カーレル遅くなってしまっ…………何をしているんだ?」
「ちょっとこれはずるくないかい?」
「何の話だ?」

勝手に他人のジーンズを穿いている私に訝しそうな顔を向けるディムロス。
そんな彼にムスッと不機嫌な顔を向けて、穿いていたジーンズをそちらへ投げる。

「ほら、さっさと着替えなよ。」
「あ、ああ……?」

先ほど脱ぎ散らかした自分のジーンズに足を通しながら溜め息を吐く。

「あーあ、ディムロスの方が足が長いなんて何かショックだなー。」
「身長の問題だろう……。」

そういう事だったのか、と呆れた顔をするディムロス。
穿いたジーンズは1cmの余りもなく、彼の足にぴったりの長さだ。

「違うんだよね、それが……。」
「何が違うんだ?」
「ああ、もう、何でもないよ。」

訳が分からないという顔をしながら、ディムロスが髪を結い上げる。
それを不機嫌な眼差しで見つめながらポツリと呟く。

「髪、上げるのかい?」
「ああ、もう暑くなってきたからな。」

そんな一言に、不機嫌だった表情が何故か顔が綻ぶ。

「そうだね。もう、夏だものね……。」

ディムロスは動作も言葉も返さなかったが、何となく同意していた事が空気で伝わった。

「さあ、行こうか。」

仕度を終えたディムロスの腕を引いて外に出る。
空の高くで太陽がきらきらと輝いていた。










そこまで大きくは違わないのに確固たる隔たりがある、この4cmくらいの距離感が案外好きです^▽^
でも、これくらいの身長差だと、その人の雰囲気で身長差なんて簡単に逆転して見えるからなあ……

怒ってるカーレルと怒られてるディムロスを眺めてるシャルティエには、カーレルの方が大きく見えてたりとかしたら面白いだろうなwww