しんしんと冷えた空気は夜の間に余分なものを洗い流してしまったらしく、どこまでも透明だ。
大気が澄んでいる為に空は高く青く晴れ渡って、寒々と細い雲がたなびいている。

微かに霜の残る地面を踏みしめると、ざくりと硬い感触が足元から靴底越しに伝わった。

「寒いな……。」

まだ、時刻は六時を少し回った所だ。
漸くほの明るさを取り戻した街では、まだ眠っている人も大勢いるだろう。

私はこの時間が嫌いではなかった。

街角を曲がり、学校へ向かう。
街路に植わった金木犀の香りがすれ違い様に鼻先をくすぐった。

「やあ、早いねディムロス。」

唐突に後ろから声をかけられて、振り向いた。
暢気そうな表情を浮かべて片手を挙げたカーレルがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

「お前こそ。」
「うん、今日は生徒会の用事でね。」

吐き出す息が白い。

喋る時に少しずれたマフラーを巻きなおして、カーレルは笑う。
白地にオレンジのボーダー柄がカーレルによく似合っていた。

「全く、生徒会役員なんてなるものじゃないね。」
「お前なら適任だ。」
「よく言うよ。部活があるからって蹴っておいて。」

確かに、先代の生徒会長に誘われはしたが、それとこれとは話が別だ。
カーレルほど生徒会役員として働くのに適した人間はこの学校にはいないだろう。

「その部活に行くところなのだから、恨み言は勘弁してくれないか。」
「そうだね、君みたいな新部長に付き合わされる剣道部の人たちに免じて許そうか。」

どういう意味だと言ってやりたかったが、カーレルが不敵な笑みを浮かべたままでいるのを見てやめた。
どうせ、口では私が遣り込められるに決まっている。

「じゃあ、また教室で。」
「ああ。」

校門を抜けた所で、カーレルと別れた。
カーレルはそのまま校舎の方へと歩いていく。

私はその後ろ姿を少しの間見送って、剣道場へ向かって歩きだした。

冷たい空気を切って歩く。
白い息と共に長く伸びた髪が後ろに流れた。

ふと空を見上げる。

多くの人が微睡みに眠る、冬の朝。
粛々たる青。

そう、嫌いではない。

ふと笑みが零れた。










カーレルとディムロス
果たして二人が来ているのは学ランなんでしょうかブレザーなんでしょうか……