「ディムロス。」

返事がない。

「ねえ、ディムロス。」

やはり、返事がない。

「ディムロスったら。」

相変わらずの上の空。
ぼんやりと赤く染まった窓の外に視線を流しながら、その実何も見えてはいないのだろう。
彼の視界はその思考と精神の内側に閉じ込められていて、瞼より外側へは働きかけていないらしい。

「ディムロスー?」

きっと、聴覚も同様なのだろう。
ひょっとすると、触覚ですら。

一体そんなに真剣に、何を考え込んでいるのだろう。
窓の外からの光を受けて、自らも真っ赤に染まったディムロスを眺めて考える。
どうせ、くだらない対人関係の悩みだろう。

全く困ったものだと思いながら、ふと、小さな悪戯を思いつく。

「ディムロス?」

返事がない事を確認して、その唇に小さくキスをする。
ディムロスは驚いたらしく、かけていた椅子からガタリと音を立てて滑り落ちた。

残念。
気がつかなかったらそのまま押し倒してやろうかと思ったのに。

「あ、アト、アトワイト……っ!」
「やっと気がついたのかしら、さっきからもう何度も呼んでいたのに。」

触覚は健在だったようだ。
その顔が赤いのは、夕陽の所為だけではないだろう。

「そ、それはすまなかった……一体何の用だ?」

慌ててそう呟くディムロスに、思わず溜め息が零れた。
ここまで気がついていないとなると、いっそ清清しくさえある。

「お鍋焦がしたみたいよ。」

どうやら、嗅覚は麻痺したままらしかった。










アトディム!^▽^