どうしよう……。
普段は真面目で、仕事が出来て、頭の回転が速い、地上軍を取り仕切る中将たちが……。
「何を言っているんだ、オムライスには和風餡が一番合うに決まっている!」
「今回ばかりは賛成できないね、オムライスにはソースをかけるに決まっているだろう?」
こんな下らない事で争っているなんて。
「ケチャップライスに和風餡をかけるだなんて、信じられないね。」
「米には醤油で味をつけるに決まっているだろう。」
「それでは、それはもうオムライスではないよ。」
中将たちは物凄い剣幕で言い合いを繰り広げている。
一見すると、会議室に紛れ込んだのではないかとさえ思うほどだ。
……そう、二人の手に握られているのが、オムライスの皿でなければ。
「お前こそ、ケチャップライスにソースをかけるなんて常識では考えられん。」
「何を言っているんだい、ディムロス。ケチャップとソースの組み合わせがいいんじゃないか。」
どうやら、どちらにも一家言あるようだ。
しかし、ここは食堂だ。
ヒートアップしている二人の中将は周りが目に入らなくなっているからいいが、一緒にいる僕は周りから白い目で見つめられている。
ああ、嫌だなあ……。
周りの人々の視線が僕に訴えているのは、早くこの喧嘩を止めろというもの以外の何物でもない。
でも、それが他のどの仕事より一番大変な気がする……。
少なくとも、僕に終結できるとは思わない……。
そう思った所で、はた、とハロルド博士に出くわした。
普段ならば、研究材料にされるのから逃れる為に一歩引く所だけれど、今の状況下では女神にさえ見えてくる。
「は、博士……っ!」
思わず涙を浮かべそうになりながら、ハロルド博士に駆け寄る。
「あら、シャルティエ。なーんか面白い事になってるわねえ。」
「そんな暢気なこと言ってないで、何とかしてくださいよー。」
「やーよ、めんどくさい。それに、こんな面白い事見逃す手はないじゃない!」
…………ダメだ、ハロルド博士に相談しようと思ったのが間違いだった。
ハロルド博士は白衣のポケットからいそいそとメモを取り出すと、とても楽しそうにこの喧嘩の経緯を纏めて記していった。
「お願いですってば、博士! こんな公共の場で中将二人が喧嘩してるなんて、全体の士気低下に繋がりますよ!」
「それならそれで面白いじゃない。ホントに士気が下がるかどうか、こりゃ見ものだわー。」
ダメだ。
やっぱり何を言っても通用しない。
「博士、本当にお願いしますよ! 僕、何でもしますから!!」
「…………何でも、って言ったわね?」
博士がにこりと笑う。
あ、ヤバイ。
口を滑らせた。
この喧嘩を見守ってるよりも、大変な惨事が僕の身に降りかかりそうな予感がする……。
「あ、あの、その、やっぱ、今のなしで……。」
「それなら仕方ないわねー。いっちょ止めますか!」
言いながら、ハロルド博士が止める間も無く二人の間に割り込む。
あの剣幕の最中に割り込めるというのが、何ていうか……もう既に凄い。
「兄貴も、ディムロスも馬鹿ねー! オムライスにはケチャップって相場が決まってるでしょ?」
「は、ハロルド……そうは言うけどね……。」
「そうだぞ、ハロルド。個人の嗜好というものがだな……。」
ハロルド博士が割って入っただけで、あの険悪な雰囲気が鳴りを潜めている。
ああ、二人とも博士には甘いからなあ……。
「何言ってんのよ。ソースも和風餡も、どろっどろで字なんか書けないじゃないの。」
「字……?」
「ほら、こうやって……。」
ハロルド博士は手に持ったオムライスの皿に、ケチャップで大きなハートを描いた。
「この中に、名前書くのが王道っしょ!」
「なるほど。」
「たしかに。」
二人はハロルド博士がそのハートの中央に一体誰の名前を書くかに興味が向いたようだった。
ハロルド博士は鼻歌を歌いながら、手際よくケチャップを動かしていく。
「ふっふふんふふーんふーん、はい、でーきた!」
濃厚な卵黄の黄色に、血文字のように赤々と”シャルティエ”と刻まれているのが見える。
……って、ちょっと待って、何で僕!?
途端に二人の中将にジトリとした目つきで睨まれる。
兄馬鹿な上司が二人。
えっ、何これ、流石に怖い。
「はい、これあげる。アンタの分。」
にこりと微笑んで博士はその皿をこちらに遣した。
「え、あの、博士。中将たちは無視ですか。っていうか、ご自分のじゃないんですか、これ……。」
博士は中将たちの事には一切触れず、彼らには聞こえないようにしたり顔でこう呟いた。
「だって私はマヨネーズ派だもん。」
後に、一週間実験台にされた事をここに追記しておく……。
第一次オムライス戦争^▽^
ディムロスがハロルドに対して兄ばかなカンジで接してたら可愛い気がする……