「例えばさあ。」

ハロルドが唐突に口を開く。

「ポーンと空まで飛んでいって、消えちゃいたいなあ……なんて、思ったりしない?」

これは一体どういう意図をもった問いかけだろうか。
首を捻らせて私は考える。

「そんなに小難しい事じゃないよ。」

ハロルドはくすくすと笑って、私の目の前に珈琲のカップを置いた。
こんな抽象的な発言は彼にしては随分と珍しい事だ。

「私が消えたら、この地上を纏める人間がいなくなってしまうよ。」

今、この時期にそれはまずい。
そう物理的な観念に即して答えるとハロルドは更に笑って呟いた。

「言葉通りの意味なのに、メルは分かんないかなあ……。」

言葉通りとはどういう意味だろうか。
ハロルドの置いてくれた珈琲を一口含んで考える。
ブラックだ、苦い。

「言葉通り、か……。」

そんな私の表情で察したのか、ハロルドはスッとミルクを差し出した。
いい年をした大人がこうして子供に甘やかされるのを情けないとは思わないでもないが、飲めないものは仕方がない。

「オレは偶に、消えちゃいたくなるけどね。」

少し首を傾げてハロルドは何かを考えだすと、やがて一人で納得したかのように頷いた。

「ああ、違うな。消えたいっていうか……あの空に吸い込まれてみたいんだ。」

そうして、それだけ呟くとさっさと踵を返して、帰っていってしまった。

残された私は小さな溜め息を零して珈琲に口をつけた。

あの小さな天才は、天才でいる事に疲れてしまったのだろうか。
柵を疎んじているのだろうか。

見た事もないであろう空の色に、吸い込まれたいと思うほどに。

天高い青に溶けて、消えてしまいたいと思うほどに。










入軍して何ヶ月か経った頃かな……?

武器ばかりを作るのに疲れたり……
まあ、そういう事もあるよねっていう