「兄貴!」
バタバタとこちらへ駆けて来るのは、可愛い可愛い私の妹。
ピンクの髪を靡かせながら私の胸へと飛び込んでくる。
私はその衝撃をそのまま抱きとめて、それからそっと抱きしめた。
「ねえ、これ新しい考えなんだけど!」
興奮した様子でそう言って、彼女は何枚かの紙切れを私に手渡した。
紙の上にぐちゃぐちゃと、文字同士が折り重なるようにして書かれたメモ。
私以外には解読もできなければ、彼女の考えの理解もできないだろうなと、思わず苦笑が零れるような乱雑なメモ書き。
そして、私にしか分からないという事が酷く愛おしかった。
「へえ、凄いじゃないか。ハロルド。」
「でっしょー?」
紙片にじっと目を落としてハロルドのアイデアを頭に入れる。
どうやら、媒体を使うことによってエネルギー効率を上げようというものらしい。
端的に褒めたら、彼女は自身満々といった様子で腰に手をあてた。
凄いと思ったから、凄いと言う。
決して甘やかしたいからだとか、そんな理由ではない。
だからこそ彼女は喜ぶし、発明やアイデアを真っ先に私の所に持ってくる。
この天才が、この世に初めて創造するものを、最初に目にする事ができる幸せ。
愛する妹が真っ先に自分を頼る事の喜び。
なんて素晴らしいんだろう。
「褒めて褒めて!」
「うん、凄い。流石はハロルドだよ。」
子供のように無邪気に、私の服を引っ張りながら彼女がねだる。
私はその幼さに苦笑を零しながら、彼女の頭を柔らかく撫でて、額にそっとキスをした。
「これ、どうするんだい? 清書してリトラーさんの所に持って行っておこうか?」
紙片をちらつかせて言うとハロルドはにこりと笑って、あっさりそう言った。
「うん、じゃあお願い。」
清書し間違えるという不安さえないのだろう。
この複雑で難解な式や、省略された記号さえ、私には分かっていると彼女は分かっている。
「ありがとね、兄貴!」
そう言って、ハロルドは私の襟についているファーを掴んで引き下げると、自らも背伸びをして、頬に小さくキスをした。
「じゃあ、私まだ考える事あるから!」
そう言って、来た時と同じ勢いでバタバタと廊下を駆けていく。
それにやれやれと溜め息をひとつ零して、天才のメモを丁寧にファイルの中にしまいこんだ。
「全く、困りものだ。」
言いながら、キスされた頬をそっと押さえる。
妹にキスされてここまで嬉しいと思ってしまう自分も、どうかと思うが。
「でも、仕方ないね。ハロルドはあんなに可愛いんだから。」
可愛くて、愛おしくて仕方がない。
私の妹。
そして、妹に向けるには鮮やか過ぎる愛情。
頬についているであろうヴィヴィッドピンクの口紅をそっと拭って、私はこのメモをどういう方向性で纏めるべきかとファイルの中に思いを馳せた。
カーハロ^▽^
……カーハロって、私初めて書いたかもしれない