「ああ、そろそろサボテンの季節だわ。」
思い出して、ポツリと呟く。
すると、隣に居たディムロスが怪訝そうな顔をした。
「サボテンに季節などあるのか?」
「んー、ないわよ。」
「どっちなんだ……。」
「だーかーらぁ、あると言えばあるしないと言えばないのよ。」
あっさりとそう答えると、ディムロスは呆れ顔で溜め息を吐いた。
全くもう、失礼な奴。
「そもそもサボテンっていうのは、植物界、被子植物門、双子葉植物網、ナデシコ目、サボテン科に属する植物のことを指すのよね。」
「そんな専門知識はいらん。」
「まあ、聞きなさいよ。サボテンっていうと水をやらなくてもいいだとか、暑い所でしか育たないとか、花を咲かせないとかそういう誤解をする輩も多いんだけど……。」
ディムロスが少し、驚いたような顔をしている。
あれ、もしかして、知らなかったのかしら。
「花を、咲かせるのか……あのトゲトゲしたものが……。」
「あらら、ホントに知らなかったの?」
「あ、ああ……。」
本当にディムロスったら馬鹿ねえ。
ん?
……って事はこれも知らないのかしら?
ディムロスをからかうつもりで、更に言葉を続ける。
「でも、この間サボテンの果実食べたでしょ?」
「……果実?」
ぽかんとした表情のディムロス。
普段は見られない表情だけにこみ上げる笑いもひとしおだ。
「ぶっ、あっははははっ! アンタ、ホントに知らなかったのー?」
「な、何がだ……!」
「ドラゴンフルーツ、この間お裾分けしてあげたじゃない。」
偶々手に入った南部の果物だと、兄貴がディムロスにも分けていたのを私は知っている。
その偶々が自家栽培だとまでは伝わっていなかったようだが。
「アレ、サンカクサボテンの果実よ。私が丹精込めて育てたんだから。」
「そ、そう……なのか……。」
「そっ。」
言うと、ディムロスは少し困ったような顔をして視線を逸らした。
この為にわざわざ兄貴は私が育てたものだと言わないでおいてくれたのだろう。
さっすが、兄貴は分かってるわね。
ディムロスはこうやってからかうのが面白いんだから。
「……美味かった。」
「ふふん、当然。」
ぼそりと小声で呟くディムロスにVサインを示して笑う。
サンカクサボテンは寒さに弱いから、馬鹿にレンズエネルギーを喰ったのだ。
美味しく育ってもらわなければ作る価値も、三分の二減するというものだ。
半減どころではない。
「でも、サボテンって品種によって開花時期がまちまちなのよねー。モノによっちゃ、開花するまでに三十年もかかるのもあるし。」
「三十年!?」
「そうなのよ、大変ったらないんだから!」
今、手塩にかけて育てているのはもうかれこれ二十五年にはなろうかという代物である。
開花まであと五年もかかるのだ。
何処から手に入れたかってのは、まあ、ヒミツだけどねー。
「で、他にも育ててるのがあって、そろそろ花が咲く筈なのよねー。」
「そうなのか。」
「サボテンの花って……まあ、品種にもよるんだけど、大体三日くらいしか咲かないからさあ。」
鮮やかに咲いて、三日で消える。
その期間だけがそのサボテンに与えられた輝かしい季節。
「どんな花が咲くんだ?」
言葉の意味を漸く理解したらしいディムロスが静かに笑って呟く。
私は何となく嬉しくなってディムロスの回りをくるくる回りながら答えた。
「ビビッドオレンジのすっごくかっわいいの!」
「そうか。」
「あ、何だったら見に来る?」
ディムロスは少し考えて、それもいいな、と笑った。
「咲いたら是非誘ってくれ。」
「オッケー! よし、サボテンデートね!」
「ちょっと待て、何がデートだ。何が。」
焦るディムロスを置いて、サボテンの様子を見るために部屋を飛び出す。
「デートはデートよ。」
最後にひょこりと顔だけをもう一度覗かせてそう言ってやった。
ディムロスは真っ赤になっていた。
それを尻目に、廊下を駆けていく。
「サボテンの季節になったら、デートしましょ。」
廊下を進みながら、小さな声で呟く。
何だかとってもロマンチックではないだろうか。
サボテンって奥が深いですね^▽^
私には育てられそうもないですがwwwww