ロイドを尋ねて部屋へと向かったが、あの赤い背中は見つからなかった。
外にふと人の気配を感じて、独特な造りのベランダへと足を伸ばす。
「デリス・カーラーンに行くんだって?」
振り向く事もなく、赤い背中は言った。
「…………ああ。」
小さく肯定の返事をすると、ロイドが小さく笑うのが分かった。
「そう言うと思ってた。」
「……すまない、結果的に伝えるのが一番遅くなってしまって。」
「いや、別に。」
中々言い出せなかった私の代わりに、コレットかジーニアス辺りから聞いたのだろう。
静かに笑うロイドが、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「いいんじゃねーの。それが、一番。」
「…………そうだな。」
ロイドが苛立っている事が嫌というほど分かった。
しかし、それは仕方の無い事だ。
「…………なあ。死ななきゃいけなかったのって、ミトスだけか?」
「…………。」
「違うよな。」
答える術を私は持たない。
だから黙り込む。
一番卑怯な方法である事は知っていたけれど、それでも他の方法を私は持っていなかった。
「3歳のオレから父さんと母さんを奪ったのはミトスだ。それはオレにはどうしても許せない事だし、アイツは他にももっと沢山の許されない事をした。」
ロイドは気にする風もなく話を続けた。
「どんな風に生きたって、多分それは償えないと思う。」
「…………その通りだ。」
漸く、それだけを呟いた。
そんな私にロイドが微笑む。
「…………でも、生きてて欲しかった。」
長い沈黙が下りた。
きっとこれは、誰よりあの子に近かったロイドだから言える言葉なのだろう。
「オレはアンタにも生きてて欲しかった。アンタはオレの言う事聞いてくれたけどミトスは聞いちゃくれなかった。」
そうだ。
ロイドが望んだから。
ロイドがそうして欲しいと言ったから、私は今生きている。
「でもさ、アイツが死ななきゃならないなら。アンタだって死ななきゃならないだろ。」
「……ああ。」
「自分で生きてて欲しいって言っておいて死ねって言うのおかしいよな?」
「いや、何もおかしくなどない。」
ははは、と乾いた笑いを零すロイドを肯定した。
だって何も間違ってなどいないのだから。
「ミトスを一人で死なせた事を、気にしているのだろう?」
ロイドの笑いがすっと消えた。
「あの時、私も共に死ぬべきだった。」
「でも、そうしてたらきっとオレは止めてた。」
「そうだな。」
きっとこの子ならそうしただろう。
それは間違いのない事だ。
「お前に生きろと言われて、私はお前の居る世界に居たいと望んだ。全てお前に押し付けて。」
それはとても罪深い事だと思う。
そして、こうして口に出す事で許しを請おうとしている。
私は黙っても、喋っても、卑怯だ。
「……ミトスも、オレに押し付けてくれたらよかったのに。」
きっと、言っているロイド自身もそんな事は出来ないだろうに。
あの子とロイドはそれ程よく似ていたのだから。
「アンタも好きだけど、ミトスも好きだったんだ……。」
そんな事を言って貰える程の価値は私にはない。
そして恐らくあの子にも。
それだけの事を私達はやってきた。
「分からないんだよ、どうしたらいいのか。アンタに生きてて欲しいけど……殺してしまいそうだ。」
「お前がそう望むなら、殺されても構わない。」
そうしてまたロイドに押し付ける。
親殺しの大罪を抱えて、この子が生きていかねばならなくなるというのに。
「生きて欲しい。」
そう言いながら、ロイドは私の首筋に手を伸ばした。
力は込められていないが、指が強張っているのを感じた。
これならすぐに絞める事が出来るだろう。
「やれ。」
「いやだ。」
親を殺せと唆す。
最低の親だな、と思わず自嘲が零れた。
「アンタがオレにした事は許せるよ。でも、アンタがミトスにした事は許せないんだ。」
「そうだな。」
本当なら、ロイドにした事だって許される事じゃない。
私は未だに罪ばかりを重ねている。
「アンタを、殺してしまう。」
「…………。」
ロイドの瞳から涙が零れ落ちた。
「だから、行ってくれ。」
あの紫の星へ。
「…………生きてくれ、父さん。」
「……ああ。」
それがお前の望みならば、それに従うまでだ。
「ありがとう、ロイド。」
我が最愛の息子。
そう言って、ロイドの鳶色の頭をそっと抱きしめた。
せめて、あの紫の世界でこの子が育む世界をそっと見守りたいと思う。
それを許してくれたこの子に、感謝を捧げたい。
ありがとう、ロイド。
ゼロスじゃなくてクラトスが死ぬべき。まじで。
ミトスを止める事もせず、かと言ってミトスに賛同するでもなく、ミトスを裏切って、自分だけ生きてるっていうのは…………ホント最低だな!^▽^
ロイド君の心の広さに脱帽です。
矛盾だらけのお話ですが、一番の矛盾は私がクラトスを好きな事だと思う^▽^