上半身だけ裸になって首の周りにビニールを巻き付ける。
カットクロスだなんて上等な物を置いてある訳がない。

「ナイフは無しな。」
「そうは言うが、切れ味がいいから切りやすいんだぞ。」

ディムロスがぶつぶつと文句を言う。

「ハイハイ。でも今回は鋏でお願いします。」
「……分かっている。」

ディムロスはそう呟くと、ハロルドの赤い髪をゆっくりと手櫛で梳いた。
傷んでいる所為か、毛先は更に赤くなっている。

「……何でこんなに傷んでるんだ?」
「髪乾かさずに寝るから、かも。」
「全く……。」

ハロルドがそう言うと、ディムロスは呆れたように溜め息を零した。

「科学部主任がそんな事でどうする。」
「へーへー、今度からは気が向いたらちゃんと拭くよ。」

上官は部下の手本なのだから、いつもその自覚を持って行動すべきだとディムロスは思っていた。
事実、第一師団の一万人の兵士の見本となるべく、ディムロスはいつも身綺麗にしていた。

「お前という奴は……。」

ディムロスはそんなハロルドの頭を軽くこづくと、櫛と鋏を手に取って髪を切りはじめた。

「前の時くらいの長さでいいや。」

そう言ったのを聞いているのかいないのか。
恐らく傷んでいる所を切っているのだろうが、随分ザクザクと切り進めている。
本当に大丈夫なんだろうか。
切りすぎるのでは、と思いながら、ハロルドは目を閉じた。
まあ、いざとなればイクティノスに整えて貰えばいい。
……整える程残っていればいいけど。





目を開けると真っ先にディムロスの顔が見えた。

「出来たぞ。」

言われて、自分が微睡んでいた事に漸くハロルドは気がついた。
ディムロスの手が自分の体温より温かい所為か、安心しきっていた所為かついウトウトしてしまったらしい。

「…………短くね?」

渡された手鏡を覗き込んで、ハロルドが呟く。
ディムロスは後ろに立ってもう一枚鏡を持っている。
それに反射させて見るが、頼んだ長さより随分と短い。
やっぱり切りすぎたか、とハロルドは溜め息を吐いた。
だが、思っていたよりは随分と様になっている。
どうやら散髪が得意というのは本当らしい。

「…………ワザと?」

鏡に写り込んだディムロスの顔が笑っているのに気付いて、ハロルドが尋ねる。

「バレてしまったか。」
「当たり前だ。」

普段ならこんな時、こちらが気にしないような事であっても済まなそうにするのに。
それで髪を切るのを頼んだ時あんなに嬉しそうだったんだな、と合点がいったハロルドが溜め息を吐いた。
どうやらディムロスの企みにまんまとはまってしまったらしい。

「何でまたこんな事を……。」

呆れるハロルドに、ディムロスは嬉しそうに返した。

「お前は短い方が似合う。」
「え。」

突然の台詞に言葉に詰まる。
もしかしてこの後に続くのは瞳が綺麗だとかそういうお決まりの台詞なんだろうか。
あんまりにも気障すぎると思うのだが、この男なら真顔でいいかねない。
なんてそんな馬鹿な事を考えているとディムロスが徐に呟いた。

「お前は表情がよく動く、隠していては勿体ないだろう。」
「……………………ばかやろう。」

そうだった。
こういう男だった。
目が綺麗だとかそんな事を言う訳がない。

「髪を短くされた事をそんなに怒っているのか?」
「ちげーよ。ああ、もう。」

表情が豊かだなんて、一体誰の所為だと思っているんだろう。
ディムロスの前だからだ。
部下の前でなんて、笑った覚えも怒った覚えもない。
全部ディムロスの所為だ。

「お前、本当に分かってねーのな……。」
「やはり怒っているんじゃないのか?」
「だから、違うって……。」

一つ溜め息を吐いて、鏡を覗く。
昔の自分だったらとてもじゃないが考えられない事だが、表情のある自分も中々悪くない。

「サンキュ。」
「ああ、気に入ったんなら良かった。」

そういう意味で言った訳ではなかったが、その勘違いが今は丁度良いくらいだろう。

「好きだぞ、ディムロス。」

そう言ってハロルドは抱き付こうとしたが、切った髪を片付けてからだとディムロスに怒られた。

「服に着くと取れにくいだろう。」

やはりもう少し空気を読んで欲しいとハロルドは思った。










切った髪を片付けてからならいいんだな? ってハロルドに言われて
いいも何もおまえはいつだって引っ付いてくるじゃないか。って返すとか
うん、何かそんなカンジです^▽^