どうにも眠れない。
赤い前髪をかき上げながら、枕もとの照明をパチリと灯して溜め息を吐いた。
感情のコントロールには長けている自信があったが、今日ばかりは仕方が無いと思う。
明日は、この長い長い天地戦争に何らかの形で終止符が打たれる日なのだから。

「ああ、違う……。」

もう、今日だ。
灯りに照らされた目覚まし時計。
時刻を指し示すその針は日付変更線をとっくに越えている。

「眠れないものは、仕方がないね。」

起き上がって、布団の上でカーディガンを羽織る。
地上の夜は冷える。
眠れないなら眠れないで、体を気遣う事は忘れてはならない。

「どうしてかな……。」

声に出して小さく呟く。
しかし、その問いの方向性は自らが眠れない事に対してではない。

「どうして私は、こうなのかな……。」





天才と呼ばれ、ハロルドと共にベルセリオスの名を高めてきた。
しかし、自分に与えられたのは軍師としての能力だけだった。
料理も、洗濯も、裁縫も。
生きていく上で必要な事は何一つできやしない。

「仕方ねーな。」

いつもハロルドがそう一言呟いて、全て済ませてしまう。

自分に与えられたのは、ただ戦う能力のみ。
相手の命を奪う能力のみ。
ハロルドの様に薬を作ったり、発明をしたりして、誰かの為にそれを使う事はできない。

一度、そう零した時。
ディムロスは少し怒ってそれを否定した。

「そんな事は無い、お前のお蔭で被害を最小限に抑える事が出来ている。お前のお蔭で救われている者がいる。お前は沢山の兵の命を救っている。」

ありがとう、と言って微笑んで。
元から何も気にしてなどいなかったようなフリをして、その時はごまかした。
嬉しかったけれど、自分がそんなに綺麗な人間じゃないのは分かっていた。
ディムロスが最小限の被害を、と望むから。
ただそれだけ。
本当は兵の命なんてどうでもいい。

そういえば、イクティノスとリトラーは以前、笑いながらこう言っていた。

「この地上が平和になったら、ゆっくりと何処かへ行きたいものですね。」
「そうだな、4人でゆっくりしたいものだ。」

自分が頭数に入っているのが、妙にくすぐったくて。
そして同時に違和感を覚えた。
彼らと共に笑っている自分が、何故か想像できなくて。

「どうしてなのかな……。」

ハロルドの様に誰かを活かす事もできない。
ディムロスの様に人の命を尊ぶ事もできない。
イクティノスやリトラーの様に未来を見据える事もできない。

何故自分だけがこうなのだろう。

「わからないな……。」

ならば、元からそういう風に創られていたのだと諦めるしかない。
昔から自分の諦めが早い事は分かっていたが、まさかこんなに簡単に自らの命をも諦めてしまえるとは思っていなかった。





敵は天上王ミクトラン。
ソーディアンを以ってしても、その勝率は五分。
確実に勝利を収める為に何をするべきか。
作戦の立案者である自分が分からない筈が無い。

自分が死んだら、彼らは泣いてくれるだろうか。
この軽い命が散ってしまう事を嘆いてくれるのだろうか。

だとしたら、少し嬉しい。

でも、彼らが涙に目を腫らす事がなければいいと思う。
自分の為に流してくれる涙は、ほんの一滴で構わない。

だって、今、自分はとても幸せなのだから。

自分の愛する人達の、未来を守れたら本望だと思う。
しかし、その為には何としても勝たなければならない。

愛している、愛している、愛している。
出来る事なら、自分の守った世界で愛する彼らが笑っていてくれるように。

そんな祈りを抱きながら、もう一度布団に潜り込んだ。





最後に、彼らと共に過ごす未来を夢に見られたら。
それはどんなにか幸せだろう。










カーレルさんは戦いの為に生まれたような人だったと思います
自分でもそんな風に思ってるから、ささいな他人との繋がりを酷く大切な宝物のように思っていて
傍から見ればささやかな幸せに、これで十分だと笑って死んでいけるんだと思います
とりあえずこの話のカーレルさんは凄く幸せで満ち足りてますよ! って話です