「ディムロスの頭?」
マリーさんが唐突にそんな事を言い出すものだから、オレは思わず復唱してしまった。
そのまま彼女を見つめると、わくわくしたような顔でマリーさんは尋ねた。
「ソーディアンとマスターは似たような髪形をしているのかと思ってな!」
「ああ、なるほど。」
「そう、スタンのようにふわふわなのかどうか気になって気になって……夜も眠れないんだ!」
「それは大変ですね!」
彼女はいつもオレより遅くまで起きているから、実態は分からないが、きっと物凄く気になっているのだろう。
しかし、残念な事にオレにもディムロスの髪型はわからない。
「なあ、ディムロス。ふわふわしてるのか……?」
『いいだろう、髪形など……何故お前まで気にするのだ。』
「いや、だって……。」
『くだらん。周りに集中せんか!』
「ちぇ……。」
小言が降って来たところで追求を諦めて、溜め息を吐く。
「マリーさん、ディムロス教えてくれなさそうなんでアトワイトに聞いたほうがいいかもしれませんよ。」
「そうか。ではそうしよう。」
マリーさんは少し残念そうな顔をしたが、そのままルーティの所へ駆けて行ってしまった。
『アトワイト、か……。』
「どうかしたか、ディムロス?」
『いや、余計な事を言われなければいいと思っただけだ。』
「まさかー、アトワイトがそんな事する訳ないだろ。」
『…………。』
オレは有り得ないと笑ったが、ディムロスは微妙な面持ちになった。
いや、顔は見えないんだけどさ。
『……お前は、行かないのか?』
暫くして、ディムロスが尋ねた。
「え、なんで?」
『いや。真っ先に駆け出して行きそうなのに、意外だと思っただけだ。』
行かないのならそちらの方が都合がいいと言いながら、ディムロスは溜め息を吐いた。
「だってさ……。」
『どうした?』
「…………。」
言ったら馬鹿にされるかな、とかちょっとそんな事を思ったりもしたんだけど、ディムロスが待ってくれていたので結局そのまま口を開く。
「……他の人から聞くんじゃなくて、どうせならディムロスからちゃんと聞きたいじゃないか。」
ディムロスは、少し驚いたような顔をした。
いや、やっぱり顔は見えないんだけど。
『……全く、お前という奴は。』
「な、なんだよ。」
『いや、馬鹿な奴だと思っただけだ。』
「もー!」
やっぱり馬鹿にされた。
予想通りなんだけど、何となくまあいいかとも思ってしまう。
『私の髪は……。』
「あ、待って待って! ストップ!」
ディムロスが話そうとするのを慌てて遮る。
『一体どうしたと言うのだ……。』
呆れたような口調のディムロスに、何と言ったらいいか分からなくてちょっと戸惑う。
「えっと、オレが考えるから待って!」
『クイズではないのだがな……。』
意図を汲み取ってディムロスが溜め息を吐いた。
オレはそれを聞き流して、考えた。
「うーん、と……。」
『何の情報もないのだから、あてずっぽうにしかならんだろう。』
早く言えと言外に急かすディムロスに、オレは慌てて考えを巡らせた。
「え、あ、分かった!」
『全く……。』
ディムロスが呆れた声で、それでも続きを促す。
オレは笑ってそれに答えた。
「青だろ。」
『…………!』
「な、違う? あってる?」
なあなあ、とディムロスを急かすと、ディムロスは小さな声で呟いた。
『何故、そんな突飛な色だと?』
確かに、茶色とか金色とか、ちょっと珍しいけど黒とか。
そういう色だってある筈だ。
青、というのは確かに少し突飛かもしれない。
「うーん、えっと……さ。ディムロスの髪って、空の色なんじゃないかって思ったんだ。」
言ってから少し恥ずかしくなった。
でも、空を覆う外殻を見上げた時に、ふっとディムロスの髪は空の色なんじゃないかって思ったんだから仕方が無いじゃないか。
「ディムロス……?」
答えを求めてディムロスの名前を呼んだ。
『……正解だ。私の髪は、青だ。』
「え、ホント!? よっしゃ!」
ガッツポーズをとったオレにディムロスは溜め息を零した。
でも、怒っている訳じゃ無い事は何となく分かった。
「じゃあ、アトワイトの話聞きに行くか。」
『ちょっと待て! 結局行くのか!?』
「当たり前だろー。」
『何が当たり前だ! おい、こらスタン!』
人の話を聞け、と怒鳴るディムロスを無視してオレもルーティの所へ向かった。
「スタン、スタン! ディムロスとは女性だったのだな!!」
「え?」
ルーティの傍らへと到着するなり、マリーさんはオレにそう言った。
「聞けば、青い髪を腰まで伸ばし、白いロングスカートをはためかせていたと言うではないか!」
「…………そうなの?」
『そんな訳がないだろう……!!』
恐る恐るディムロスを伺うと、怒りの表情でディムロスが呟いた。
いや、だから顔は見えないんだけどね。
『アトワイト! 一体どんな説明をしたのだ!!!』
『あら、全部事実じゃない。』
『そ、それはそうかもしれないが……。』
「ロングスカートなんだ。」
『ち、違う! 誤解だ、あれはスカートではない!!』
オレが口を挟むと、今度はこちらに矛先が向いた。
なんだかなあ。
『他にもリトラーに……。』
『アトワイト!』
話を続けようとするアトワイトの声を遮るようにディムロスが叫ぶ。
『もう。ディムロスったら、事実なのに……。』
「ならいいじゃないか、ディムロス。」
『よくなどない!』
「何でだよ!」
『ふふふ、きっとスタンさんには聞かれたくないのよ。』
「えー、何でオレには聞かせたくないんだよ。なあなあ、ディムロス!」
『う、うるさいぞ、スタン!』
何だかんだで結局ディムロスの話は聞けなかった。
一体何だったんだろう。
気になるなあ。
「なあ、ディムロスー。」
『うるさい!』
意地でも教えてくれなさそうだ。
まあ、それならそれで仕方ないか。
また、自分で考えてみよう。
アトワイトに何かディムロスの赤っ恥を語らせようとしたら『リトラーに片恋してた事とか。』って、私の脳内のアトワイトさんがうっかり言い出したので
『違う、あれはそうじゃない! 誤解だ!』ってディムロスが慌てて否定してました
そういう否定の仕方は、より誤解を生むと思います^▽^