その藍色の瞳を覗き込んで、小さく微笑んでみる。

「どうかしましたか、カーレル?」
「いえ、なんでもありませんよ。」

居心地が悪そうに眉間を顰めるイクティノスに、私はすっと一歩後ろへ下がると、デスクに凭れて自重を預けた。

「ただ、総司令が呼んでいらしたな、と思っただけです。」

それを聞いてイクティノスが顔色を変える。
デスクから立ち上がると溜め息を零して、イクティノスは上着を羽織った。

「折角久々の休日でしょうに訪ねてくるなんて何事かと思ったら……。」
「総司令の所を訪ねたら遣い走りを頼まれたんですよ。」
「わざわざご苦労様ですね。」

苦笑気味にそう零してイクティノスはデスクの抽斗から書類を取り出した。

「いえ、貴方に会いたかったのでとてもいい口実になりました。」
「……そうですか。」

好意を含ませた言葉を口にすると、イクティノスは少し躊躇いがちにそう言った。
私のイクティノスに抱く感情が、家族という枠組みを越えている事は疾うに気付かれている。
気付いていて彼は知らないフリをしているのだ。
そして、彼が知らないフリをしている事を私は知っていて。
私がそれを知っている事も彼は知っている。

酷く回りくどい関係だ。
少し自嘲的な苦笑が漏れた。

「貴方は一緒に戻りますか?」

もう一つ上の抽斗から鍵を取り出してイクティノスが訪ねる。
総司令の所へ共に行くかどうか。
少し悩むポーズをとってから首を振った。

「またお遣いを頼まれても困りますから。」
「そうですか。」

扉の手前まで移動して、共に部屋を出るという意思を示す。
主のいない部屋に留まる道理は無い。

「それでは。」
「ええ、失礼します。」

颯爽と立ち去るイクティノスに別れの言葉を返して、私はぶらぶらと廊下を当ても無く歩いた。
時刻は午前十一時、私室に篭るにはまだ早すぎる時間だ。
職業軍人というか何というか、常に仕事に追われてばかりいると、困ったもので偶に休みの時間を得ると持て余してしまう。
では、かと言ってその時間を仕事に振り当てるのは勿体無い気がする。
「さて、どうしたものか……。」

イクティノスは今頃総司令の所に着いただろうか。
毎度毎度、仕事を遣されると面倒そうな顔をする割に、彼は総司令の事を嫌ってはいない。
それぞれが私達の育ての親なのだから交流が深まる事は至極当たり前だし、これだけ長年の付き合いになれば気心が知れるのは当然だ。
それでもイクティノスが時たま司令に見せるあの独特の、苦笑の入り混じった柔らかな笑みは、十七年の付き合いを経ても私に向けられる事はない。
それが、大人と子供の差、という奴なのだろう。

「らしくない嫉妬だ……。」

溜め息を一つ零して呟く。
総司令に妬くだなんて、本当にどうかしている。

「……ハロルドの所にでも行こうかな。」

ディムロスは……職務中に訪ねても邪険にされるに決まっている。
恐ろしく狭い自分の交友関係にもう一つ、呆れたような溜め息を零して、私はハロルドの研究室へとゆっくり足を進めた。










カーレルさんはイクティノス大好きです
司令のことは尊敬してるんだけど、ちょっとモヤモヤしてしまったら可愛い!
あと、何かカーレルさんって、周りと友好な関係は築いてそうだけど、友達はいなさそうですよね!^▽^(←