「ディムロス、暇だね。クイズでもしようか。」

このご時勢に暇などという言葉がよくもまあ出たものだ。
普通は忙しくて仕方がないものだろう。
と、いうか実際に私は残業中なのに何故そんな提案を持ち出すのだ。

「題して、どれだけハロルドの事を理解しているかクイズ~。」
「私の参加は決定事項なのか……。」

溜め息を吐くと、カーレルはにこりと笑って私のデスクの端に腰掛けた。

「当たり前じゃない。クイズなんて一人でやるものではないよ。」

この笑顔に一体何回騙されてきた事だろう。
それでも毎度、ついついのってしまうのがいけないのだろうか。

「何というか……本人が聞いたら怒り出しそうなタイトルだな。」
「ははは、そうかもしれないね。」

どれだけハロルドの事を理解しているか、なんてカーレル以外にはとてもではないが出せないクイズだ。
クイズを出す人間が答えを知らなければいけないのは何より、本人にバレたら命が危うい気がする。

ハロルドはカーレルだけには甘いから、それはともかくとして。
カーレル以外の人間では確実に命に関わる事だろう。
ハロルドはそういう所が酷く短気だ。

「では第一問。ハロルドは紅茶党かな? それとも珈琲党?」
「珈琲だ。」

迷う事無く答える。
ハロルドはよく私に珈琲を淹れさせる。
曰く、『ディムロスが淹れるのが一番美味しい。』と。
そう言われて、嬉しくないと言えば嘘になる。
ついつい豆や淹れ方にこだわるようになってしまって、はや四年が経とうとしていた。

「正解。簡単過ぎたかな?」
「これ位は、流石にな。」

書類にサインを記して、処理済みの山に載せる。
未処理の山から一枚取り出して、カーレルが差し出してくれた。

「じゃあ、第二問。ハロルドの嫌いな食べ物は?」
「……殆ど全部だろう。」

思わず眉間に皺を寄せてしまった。

「あれ、この問題ダメかなあ……。」
「強いて言うなら、果物類と飲み物系以外だな。」

溜め息を零しながら解答する。

「そうだね、正解。」

言いながらカーレルはその白くて長い指で書類をトントンと叩いた。
スペルミスを指摘されて、それを書き直しながら次に続く問題を促した。

「それじゃ、第三問。ハロルドの嫌いな生き物は?」
「人間。」
「ふむ、正解だね。」

それはとても屈折していると思う。
自分も人間なのに、とんでもない自己否定じゃないだろうか。
普段とてつもなく尊大な癖に、そういう所だけネガティブで時々どうしたらいいのか困ってしまう。
でも、アイツは動物にとても優しい。

「続いて、第四問。ハロルドの吸っている煙草の銘柄は?」
「マルボロメンソール。」
「はい、正解。」

憎んでも憎みきれない、というか、いつもいつもハロルドから取り上げている煙草だ。
その恨めしい名前はとっくに脳に刻み込まれている。
体に悪いと分かっている癖に、何故やめてくれないのだろう。

「やめればいいのにね、煙草なんて。」
「全くだ。」

カーレルも困ったように笑ってそう零した。
同意してから、お前もとめろと言えば良かったとふと思う。
カーレルはそうやって、困ったような顔をする癖にハロルドに注意をした試しが無い。

「ラスト、第五問。」

そう言ってやろうかと思ったが、その言葉に遮られる。
タイミングを逃した、というか計られていたような気もするのだが。

「ハロルドの好きな人は?」

予想外の問いに、目を瞬かせてしまった。
カーレルが上から此方を覗き込む。
何かを企んでいるような顔。
その真意が読めない。
「分かるかい?」

ハロルドの、好きな人……。
ハロルドがいつも、好きだと言う人……。

「わ、たし……?」

ぽつりと、思わず口を突いてそんな言葉が出た。

「ぷっ、あはは……あははははっ。」
「か、カーレル?」

唐突に笑い出したカーレルに視線を遣ると、カーレルは目尻に浮かんだ涙を拭いながら言った。

「良かったよ。”カーレル”って答えられたらどうしようかと思った。」

言われて気がつく。
もしかして、自分は物凄く恥ずかしい事を言ったんじゃないだろうか。

「えっ、あ、いや……別に、そんなつもりじゃ……!」
「いや、いいんだよ。」

慌てて弁解しようとするが、それも遮られる。

「ハロルドが案外報われてるみたいでホッとしたよ。」
「…………。」

自分の椅子だというのに、何だか居心地が悪い。
妙にそわそわしてしまうのは、確実にカーレルの所為だ。

「良かったねディムロス、全問正解だ。」

カーレルはそう言って立ち上がると、私に弁解の余地を与えないまま、にこりと微笑んで私の部屋から出て行った。

「全問正解って……。」

一人残された部屋で小さく呟く。
どうしようもなく気恥ずかしくて、とてもじゃないが仕事が手につきそうもなかった。










普段なら「カーレル」って即答してるんだろうけれども
カーレルさんの意図を深読みしようとしたら、ついぽろっとそんな事を言っちゃったディムロス^▽^