幼い頃から、彼は美しい容貌をしていた。
子供らしさの抜けない白くてまろい頬に、赤く色づいた薄い唇。
赤く、柔らかな髪は肩口で一直線に切りそろえられ、髪と同色の睫毛は長く、躑躅色の瞳を縁取っている。
凛と背を伸ばして立つその姿は、思わず息を呑むほどだ。
「司令。」
呼び掛けられて、目の前の青年に視線を移す。
「どうかなさいましたか。」
ぼうっとしていらしたようですけれど、と言って微笑んだのは、あの頃から随分と成長した彼。
まず、背が伸びたし、年相応に筋肉もついた。
年を経るに連れて、彼の立場に相応しいだけの凛々しさも身に着けた。
普通ならば、美しさなどという言葉からは遠ざかって行く筈なのだ。
しかし彼は、成長しても美しさを損なわないどころか、ますます危うい美しさを兼ね備えるようになってしまった。
その源が一体何処にあるのかなどという事は私には分からないのだけれど。
実は、親としてはこれが大変に悩ましい。
「いや、君も随分と大きくなったものだと感慨に耽っていたんだよ。」
「もう十七年、ですか……司令と少将には感謝しております。」
「ああ、いや、そんなつもりで言った訳ではないのだよ。」
急に振って湧いた感謝の言葉に、戸惑ってしまう。
妙に照れ臭がっている私を見て彼は面白そうに笑うと、そっと書類を差し出した。
「それでも、いつも感謝しているんですよ。」
「…………ああ、ありがとう。」
書類を受け取ると、彼は微笑んでそう呟き、そのまま部屋を後にした。
きっと、その言葉に嘘偽りはないだろう。
「困ったね……。」
それでも、彼は私に嫉妬の念を抱いている。
彼の慕うイクティノスが、その気持ちに応えないのは私の所為だと知っているから。
親子の間でそのような行為はなされるべきではないという私の意志を、イクティノスが第一に尊重しているから。
「本当に、困った。」
それだというのに、私自身が彼の美しさに呑まれて、時々手を伸ばしそうになっている。
思わず、苦笑が零れ落ちた。
私、自らが規律を乱してどうするというのだ。
何とも美しさというのは恐ろしいものだと思いながら、私は拳を握りなおして、先程届いた書類に目を走らせるのだった。
リトカー? 的な?^▽^
リトラーさんは結局お父さんのポジションから脱却できなかったし、カーレルさんは相変わらずイクティノスが好きなままですが……
リトラーさんはずっと「カーレルさんの美しさに息を呑む→我に返る」の繰り返しをしてると思います^^