「ふんっ、ふふん、ふふーん。」

嬉しそうな鼻歌。
陽気なスキップ。
ぴょこぴょこと上下するピンクの頭。

「博士、ご機嫌ですね。」

何の気なしに声をかけると、博士はくるりと振り向きにっこりと笑った。
しまった、これは声をかけるべきではなかったかもしれない。
何だか嫌な予感がする。

「いーところに来たじゃない、シャルティエ!」

ああ、どうやら相当まずい所に来てしまったらしい。

「丁度、実験台探してたのよねぇー。」

にこり、笑う博士の笑顔は無邪気なだけに怖い。
逃げ出したいと咄嗟に身を翻すも、博士に服の裾を掴まれあえなく捕まってしまった。
ああ…………。

「ってことで、サクッとじっけーん!」

飛べ飛べロケットー、と謎の歌を歌いながら博士は研究室へと足を進める。
僕は後ろ向きにずるずると引き摺られる形で博士の後に続くのだった。





「はい、じゃあこれつけて。」

博士はテキパキと指示を出しながら、僕の体にコードや、よくわからない計器を貼りつけていった。
僕はなるだけ博士の作業の邪魔にならないように体を動かしながら、いるかどうかも分からない神に祈った。
人事を尽くして天命を待つ。
……ん、これはちょっと違うかな?

「はーい、スタンバイオッケイ!」

そうこうしている内に博士の準備も終わったらしい。

「……ぼ、僕、何されるんですか?」
「そんな怯えた表情するような実験じゃないわよ、安心しなさい。」
「物凄く不安なんですが……。」

そう言うと、ぺちりと頭を叩かれた。

「この天才様が失敗なんかするワケないでしょー!」

失敗云々より、その天才的に突飛な発想が恐ろしいのだと、どうして分かってくれないのだろう……。

「スイッチオーン!」

楽しそうな掛け声と共に、パチンとスイッチの切り替わった音が聞こえた。
その音に、これから何が起こるのかと思わず身を竦める。
しかし、幾ら時間が経っても機械が計測したデータを吐き出す音以外は何も聞こえてこなかった。

「あの……博士……?」

恐る恐る尋ねると、博士はこちらの言葉など聞こえていないかのように飛び跳ねながら言った。

「よしっ、予想どーりのデータだわ! ぐふふっ、さっすが私!」

どうやら思った通りのデータが取れたらしい。
至極ご満悦な博士はプリントアウトされた実験データを手にくるくると回っている。

「私の技術は世界一ィイイイイ!!!」

……何だかよく分からない。
まあハロルド博士の技術力が世界一なのは確かだろうが。

「あっ、ありがとねー、シャルティエ。もう、それ外していいわよ。」
「はあ……。」

しかしながら、もし壊してしまったらと思うと不用意には触れない。
固まったままの僕から、博士は手際よくコードを外していった。

「はい、よくできました。」

コードを全て外し終えると、博士は僕の髪をぽんぽんと撫でた。
そのままわしゃわしゃと掻き乱されて、細かい銀色が視界の端でチラチラ揺れる。

「行ってよろしい。」

そう言って、博士は入り口の扉を開けてくれた。
漸く解放される事にホッとしながら、そこを通り抜ける。
時間で考えるとものの十五分程なのに、何だかとても気疲れしてしまった。

「あー、でも今回は痛くも気持ち悪くもならなかったし。」

今回のは比較的アタリの実験だった。
いや、実験台にされている時点でアタリかどうか疑問ではあるが。

「良かったー。」

呟くと、後ろからカツカツカツと小走りにかけてくるヒールの音が聞こえた。
振り返ると、白衣を羽織ったピンクの頭がこちらへと駆けてきていた。

「博士、どうしたんですか?」

尋ねると、手首を掴まれて掌に何かを載せられた。

「これは……?」
「あげる、お礼。」

見ると、飴玉が二つ。
ちょんと掌に載せられていた。

「じゃあねー!」

そう言って研究室へと戻っていく博士。
袋を破いて、小さなピンクの飴玉を口の中に放り込む。

「今回のは、アタリかな。」

呟いた瞬間。
僕はディムロス中将のお遣いの途中だった事を思い出した。










シャルハロ……ハロシャル?^▽^
どうしてもシャルハロになりえない、この微妙なカンジ……

「私の技術は世界一ィイイイイ!!!」とハロルドに言わせたくて書いた話^^^^^

ちなみに、ハロルドが本当に調べたかったのは飴玉に仕込んでいた薬の効能……とか、そういうオチでどうでしょうか^▽^