どたばたと周りに積んであったものを撒き散らしながら室内に駆け込んできたのは、ピンクの頭の天才科学者だった。

「アトワイトっ、日向ぼっこしましょ!」

私はその言葉を聞いて、ついに彼女は人間として何処か切れてはいけない箇所が切れてしまったのかと思った。
いつの間にか呑んでいた息をほうっと吐き出して、私は頭を抱えた。

「ハロルド、いくら何でもそういう発言は……。」

それが出来る状況ならば、地上軍は今これほどまでに困窮していない。
天が閉ざされて日の注がない状況だからこそ、こんなに皆が必死になって戦っているのではないか。

全くこの科学者は何を言い出すのかと頭を抱えた瞬間に、彼女は私の腕を力強く引っ張った。

「いいから来なさいよー! 折角、一番に実験結果見せてあげよーってのに。」

なんと、冗談ではなかったらしい。
実験結果という事は、きっと何か新しい発明の試作品なのだろう。

「わかったわよ。ちゃんと見に行くから落ち着きなさい、ハロルド!」

私の腕を引っ張りながらバタバタと廊下を走る彼女を宥めてそう言うと、彼女は振り返ってにこりと笑った。

「何言ってんのよ! 時間が勿体無いでしょ、ほら走る走る!」
「もう、ハロルドったら!」

ばらけて顔にかかる髪を引かれていない方の手でかき上げて、私はハロルドの後について走った。

「ほら、入る!」

廊下に二人分の足音を響かせながら着いたのは、いつもの彼女の実験室だった。
しかし、いつもとは様子が違い、通された部屋は暗かった。

「あ、今ね。全部電気落としてんのよ。危ないから。」
「…………それって、大丈夫なの?」

今更ながらに、また危険な実験につき合わされるのではないかと恐怖が込みあ上げてきた。

「だーいじょうぶよ。ブレーカーさえ上げなきゃ心配ないわ。」

彼女は自信ありげにそう言って、私にクリームを手渡した。

「日焼け止め、塗ってね。そこまで紫外線がキツイ訳じゃないけど、皮膚がんにならないように。」

その彼女が科学者の顔をしていたので、私は素直にそれに従ってクリームを塗った。
彼女はこういう顔をしている時は、大丈夫だという確信があったからだ。

「あと、目傷めるからゴーグルもね。」
「はいはい、分かったわ。」

受け取ったゴーグルを私が確り装着したのを見ると、ハロルドは得意気な様子で、ガラガラとガラス部分が遮光されたドアを開いた。

瞬間。
暗かった部屋の中に光が広がった。

「すごいっしょ?」
「………………ええ。」

私は暫く呆然として、何も言葉を返す事が出来なかった。
暖かくて、きらきらとしていて、電気とは違うその輝き。

「…………本当に、すごい。」

私が感嘆の溜め息を漏らすと、ハロルドは自慢げに私の傍へ歩み寄って説明を始めた。

「これは、古代の文献を解析して、当時の太陽の明るさや熱量を地上で人が感じていたレベルで再現してるのよ。」

巨大なガラス張りのケースの中でちかちかと辺りを照らすそれは、もう二十年以上も前にこの地上から姿を消した太陽そのものに思えた。

「って言っても、これ規模小さいからさあ。その光量と熱量が地上と同じように感じられるのはケースから1mの距離までなんだけどね。」
「それでも、すごいわ……。」

彼女は、自らが作った太陽のある部屋へ私の腕を引いていく。
私は彼女に従って室内へと足を踏み入れた。

「これ、かなりの量のレンズ使ってんのよ。」

ふふん、と鼻を鳴らして彼女はケースには触らないように促した。
これが小規模だと言うのならば、本物と同じ規模の擬似太陽を作るとしたら、きっと神の眼と同等のレンズが必要になるのだろうなとぼんやり思った。

「で、じゃっじゃーん!」

彼女は部屋の隅を指し示すと、そこに私の体を押し倒した。
私はなされるがままにそこへと転がり込む。

そこは、柔らかくて、ふわふわしていて、とてもいい匂いがした。

「んー、これがおひさまの匂いってやつね。」

続いて私の上に飛び込んできた彼女が言う。

「やっぱり布団置いておいて正解だったわ!」
「……ハロルド、何なのこれ。」

彼女の奇妙な行動に私は首を傾げながら尋ねると、ゴーグル越しにニヤリとした視線をこちらへ向けて答えた。

「昔はね、天気のいい日はこうやって布団を干しておひさまの光に当ててたらしいのよ。そしたらおひさまの匂いがするって書いてたの! すごいっしょ!」
「…………なるほど、貴女これがやりたかったのね。」
「あったりー!」

彼女は楽しそうに笑うと、もう一度布団に顔を埋めた。
私は小さく溜め息を吐いて、でも、彼女に倣ってそっとそこに顔を埋めた。

暖かな、いい匂いがした。

「これが、おひさまの匂いってやつなのね。」
「そう、軍に没収される前にやっときたかったのよ。」

彼女のこんな暖かな研究も、軍にとっては軍事兵器を生み出す為の研究にすぎない。
それは、軍属の科学者にとっては仕方のない事かもしれないけれど。

「……素敵なお誘いをどうもありがとう、ハロルド。」

そう呟いて、隣に寝転がる彼女の頭にそっとキスをした。

「わお。」

彼女は少し驚いて、そして照れたのかそっと顔を背けてしまった。
そんな彼女がとても可愛らしくて、思わず苦笑が零れた。

「とても、暖かいわ。」

彼女の人を幸せに出来る発明が、本当に人を幸せに出来るようになる日が来るように。
本物の太陽を取り戻そうと、そう思った。









アンケ結果第二段でアトハロ(♀)です^▽^
かわいい女の子二人が日向ぼっこしてたらいいなあ、という私の願望によってできた話です^^^^^