「雪が解けたら……。」

ハロルドがぽつりと呟いた。
私はそれに耳を傾けながら、書類に万年筆をさらさらと走らせた。

「……雪が解けたら、何になるか知ってる?」

仕事を手伝うでもなく、かといって邪魔をするわけでもなくそこに座っていたハロルドは、唐突にそんな質問を投げかけた。
私は思わず仕事の手を止めて、ハロルドの方を見遣った。

「何だそれは?」
「ちょっとしたなぞなぞだよ。」

至極つまらなそうな表情で、ハロルドが呟く。
私に仕事の手を止めさせて、自分の方を振り向かせたかったのだろう。
相変わらず、子供っぽい事をする割に子供扱いをされるのを嫌うハロルドに私は溜め息を一つ零した。

「…………お前は一体何がしたいんだ?」

ハロルドは不貞腐れた表情で、ゆっくりと目を瞬かせた。

「何が、したい……か……。」

ハロルドは少し思案しながら、ぼんやりとそう言った。

私は椅子に座ったままぼんやりしているハロルドの方へゆっくりと歩み寄った。
そして、ソファの隣に腰掛けて、ハロルドを見遣った。

「……んだよ。」

ハロルドは意外な事に驚いたようで、私を睨み上げながらソファの隣で落ち着かなくしていた。
そんなハロルドの様子に思わず小さな溜め息を零しながら、私は呟いた。

「春だろう。」
「え……。」

傷んで、より赤くなった毛先を梳いてやりながら、そっとそう囁いた。

「雪が解けたら、春になるに決まっている。」

ハロルドは暫く黙っていたが、やがて静かに口を開いた。

「…………知ってたのか。」
「何をだ。」

何の事だか分からないと言ったら馬鹿にされるだろうとは思っていたけれど、口に出してそう尋ねた。

「知らねーで言ってやんの。バーカ。」

では、お前は雪が解けたらどうなると思う。
同じ答えが返ってくるような気がしていたのだけれど、やはり口に出してそう尋ねた。

雪が解けて、若草の息吹が聞こえてくる日もそう遠くはないような気がした。









アンケ第十弾のハロ(♂)ディムです!^▽^

カーイクの融解と対になってます^^^