「よお、ディムロス! trick or treat!」

オレがそう言うと、自室でゆったりとソファーに掛けていたディムロスは心底嫌そうな顔をした。
失礼な。

「ちなみに、片方は兄貴が作ったケーキで、もう片方はオレの新薬の実験台なんだけどさあ。どっちがいい?」
「どちらがtrickでどちらがtreatか教えて貰おうか。」

深く溜め息を吐くディムロス。

一体どっちがどっちかなんて、オレに分かる訳がない。
この場合のtreatは歓待なのか、治療なのか、それはディムロスの受け取り方によって違うだろう。

「それに、ハロウィンは菓子をくれてやるか悪戯を受けるか、という祭の筈だろう。何故、菓子を食べるか悪戯を受けるかの二択になってるんだ……!」
「それは、ほら、面白そうだからに決まってんじゃん。」

あっさりと言い切ると、ディムロスは眉根を寄せた。

世の中なんて、面白いかそうでないかの二択なんだから、当然だろう。
少なくとも、オレにとってはそうだ。

「で、どっちがいい?」

ディムロスは酷く悩んだ後に、小さく呟いた。

「…………trickでいい。」

歓待にせよ、治療にせよ、他人からそれを受ける事が苦手なディムロスは、オレの予想の通りの答えを口にする。

「ついでに、treatもやるよ。」

オレはディムロスの顎を掴むと、カプセルを歯で銜えて、舌先で口へと押し込んだ。
暫く目を見開いていたディムロスが、次の瞬間、真っ赤になって怒り出した。

「じゃあな。」

オレはそれから逃れるように白衣を翻してディムロスの私室を後にした。

そして、廊下の角を曲がってから壁に背を預けてその場にずるずると座り込む。
心臓がバクバクいっていた。
耳も熱い。

「あー、ヤバイ……。」

髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回して呟く。

いい年をして、何を恥ずかしい行動をしているんだろう。

「バカみてー……。」

小さく呟いて、そのまま膝に顔を埋める。
きっと赤くなっているだろう耳に、ディムロスが気付かなかった事だけが幸いだ。

ああ、「ホントはそれ、ただの頭痛薬だよ。」なんて、そんなの今更言える訳がない。









こっぱずかしいハロウィン話^▽^

相変わらずうちの弟ハロルドはへたれ全開ですね^^^^^