「イクティノス、ちょっと来たまえ。」
司令が何やら嬉しそうな顔でこちらを手招きしている。
嫌な予感に襲われつつも、部下としては行かない訳にもいかない。
「どうかなさったんですか、司令。」
そう言って近づいた瞬間。
ビリッ。
そんな音と共に私の頭の上に差し出されたプラスティックの板。
静電気で私の髪の表面を覆う部分が吊り上げられている。
「……………………。」
「どうかな?」
……何が「どうかな?」なのか、全く理解が及ばない。
まず、その「どうかな?」に至るまでの過程を説明して欲しい。
「おや、イクティノス機嫌が悪そうだな。ふむ、もしかして怖かったのかね。」
「何故そうなるんです……。」
私がげんなりして聞くと、司令は漸く何も説明していない事に気がついたらしく、この一連の行動の理由を説明し出した。
「いや、君があまりにも雷を怖がるからね。」
「怖くありません。」
「えーと、じゃあ、まあ、仮定の話としようか……。」
私が間髪をいれず即答すると、司令は苦々しそうな笑みを浮かべた。
だから、怖くなどないと言っているのに。
「雷と言うのは静電気なんだよ。つまりはこのプラスティックと原理は同じだ。」
「そんな事は知っています。」
積乱雲の中で生じる電気によって、地上と積乱雲の間の電荷の差が大きくなった時に生じる放電現象が雷だ。
近頃はそんな雷でさえも、神……つまり天上人が起こしているのだなどと宣う宗教団体も出ていて嘆かわしい限りなのだ。
「つまり、これが怖くないなら雷も怖くないのではないかと思ってだね。」
「また下らない事を……。」
私が溜め息を吐くと、司令は苦笑しながらこう言った。
「おや、実は怖かったのか。それはすまない事をしたね。」
「誰がです。全く……こんなもの、怖い訳がないでしょう。」
そう言うと、司令はプラスティックを机に置いて呟く。
「では、もう雷の夜に一人でも平気だな。」
「なっ……!」
冗談じゃない。
そんな恐ろしい事。
「それとこれとは話が別です!」
「でも、これは怖くないと言っていたじゃないか。」
司令はプラスティックを指差して、さも当たり前のように言った。
「そ、そんな事言ったって、怖いものは怖いんです!」
言ってから気付いた。
司令がにやにやと笑っている事に。
「そうか、怖いのか。」
謀られた……!
「こっ、怖くなんか……っ、ありません! 失礼します!」
そう言って部屋を飛び出す。
ああ、全く情けない。
部屋を出た途端、堪えていたのであろう司令の笑い声が扉の向こうから聞こえてきて、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。
いい年をしてこんな事でからかわれて泣きそうになるなんて、なんて惨めなんだろう。
廊下をバタバタと走り去りながら、いっそ司令の前で泣いてやれたらどんなにか楽だろうと、そう思った。
アンケ第12弾!
ちょっとからかってみた司令と予想外にそれが悔しかったイクティノス^▽^
司令は後で謝りに行けばいい^^
イクティノスは入れ違いくらいで陰険な嫌がらせをすればいい^^
で、タイミング悪く、謝られた後で仕掛けておいた嫌がらせが発動しておろおろするイクティノスとかね!^^^^^