「早くしないと置いていくわよ。」
「待ってよアトワイト!」

自分から誘っておいて、自分の支度が出来るまで待たせておいて、その癖置いていくなんて酷い。
そう思いながらも口には出せない自分がいる訳で。
ああ、新年早々なんてことだろうと思いながら溜め息を吐きそうになるけれど、年初めから溜め息なんて縁起が悪いな、なんて結局思いとどまる自分がいる訳で。

年が明けても、僕の優柔不断は相変わらずだ。

慌ててアトワイトの後を追いかけて、玄関を出る。
アトワイトは玄関の外で白い息を吐きながら僕を待っていた。

「どうかしら、シャルティエ。」

そう言って、くるりと回って見せたアトワイトは艶やかな着物姿で、ダウンジャケットだけを羽織って出てきた僕は、何だか並んで歩くのにも気が引けるななんて思ってしまう。
これなら勧められた時に面倒くさがらずに着付けしてもらえばよかった。

……ああ、後悔癖も相変わらずだ。

「なぁに、コメントの一つもない訳? モテないわよ、シャル。」
「……うるさいなあ。」

本当は凄く綺麗だと思ったけれど、こうなっては今更言える筈もない。
近くの神社へと足を進めながら、小さく溜め息を零す。

あ、溜め息吐いちゃった。

「女性の服を褒めるのはマナーよ。」
「はいはい、綺麗綺麗。」

言ったら足元を引っ掛けられて転びそうになる。
そして、足を縺れさせている僕を見てアトワイトは笑っていた。

……そこまでしなくてもいいと思うんだけど。

「……はあ。もう、いいよ。行こう。」
「ええ、そうね。」

もう一度溜め息を吐いた僕に、アトワイトはあっさりとそう言って足を速めた。
何だかなあと妙に虚しくなりながら、僕もアトワイトの歩幅に合わせて足を進めた。

「思ったより空いてるわね。」
「そんなに大きい神社じゃないからね。」

多少の混雑はあるものの、気になるほどではない。
そのまま石畳の真ん中を歩かないように気をつけて進み、からからと鈴を鳴らして賽銭を放り込む。

「シャル、ニ礼ニ拍一礼よ。」
「わかってるよ。」

アトワイトに言われて渋々ながらそれに従う。
隣でアトワイトもきっちりそれを済ませていた。

今年こそは、この優柔不断だとか後悔してばっかりの所とか、アトワイトにいいように遊ばれる所とか、後ろ向きな考え方だとか、そういったものを治せますように。
改めて祈りの言葉を考えると、自分の駄目な面が浮き彫りになってちょっと悔しい。

「絵馬、書いていく?」
「いいんじゃない。」

別にいいんじゃない、という僕の言葉をアトワイトは肯定と捉えたらしく、僕を置いて絵馬を買いに行ってしまった。
……こういう間の悪い所も治るように祈っておけばよかった。

「ほら、シャル。貴方の分も。」
「え、あ、うん……。」

戻って来たアトワイトは僕の分の絵馬も買ってきてくれていたらしく、ペンと一緒に一枚の絵馬を渡された。

「何て書くの?」
「…………間の悪い所が治りますように。」

さっき願い忘れた分を書いておこうと思ったのだが、アトワイトに爆笑されてしまった。
まあ、言ったらそうなるだろうとは思ってたけど。

「ああ、おかしい。そうね、貴方って本当に間が悪いものね。」
「悪かったね。」

僕が不貞腐れるとアトワイトは少し困ったような顔をして笑った。

「そうね、じゃあ私がシャルの間が悪い所が治りますようにって書いておいてあげるわ。」
「え、い、いいよ!」
「あら、遠慮する事ないじゃない。」

そう言って、アトワイトはさらさらと自分の分の絵馬に願い事を書いていく。

「だから、貴方はもう少し自分の為のお願いしなさい。」

キュッとペンのキャップを閉めて、アトワイトは笑う。
僕は不貞腐れた顔のまま俯いて、何も言えなくなってしまった。

「……………………。」

無言のまま、絵馬にペンを走らせる。

「何書いたの?」
「秘密。」
「あら、教えてくれないの。」
「うるさいなあ。ほら、もう帰ろうよ。」

アトワイトに見られない内にサッと絵馬を掛けて、神社を後にする。
つまらなそうな表情を浮かべたアトワイトの手を引くと、アトワイトは黙って着いてきた。

「…………アトワイト。」
「何?」

暫く歩いて、人混みを抜けたところで振り返る。

「…………着物、似合ってるからね。」

そう言うと、アトワイトは心底おかしそうに笑った。
何だよ、折角人が褒めたのに。

「やだ、もしかして絵馬の願い事ってそれ?」
「う、う、う、うるさいなあ!」
「あーもう、シャルったら可愛いんだから。」

言葉に詰まる僕の掌をぎゅっと握って、アトワイトは歩き出した。
僕はやっぱり不貞腐れて……いや、照れ臭くて俯いたままで。

結局の所、絵馬の願いが叶ったかと言うと、半々と言った所で。
まあ、それでもいいかなと思いながら、アトワイトと一緒に家へと帰るのだった。

まだまだ今年も、抱負だらけだ。





『正直に、アトワイトが綺麗だって言えるようになりますように。』









アンケ第15弾アトシャル^▽^

シャルってこんなもんだよね!