モリュウの城に、朝の爽やかな日差しが差し込む。
日差しは襖を貫いて室内を明るく照らした。

俺は髪をそっと掻き上げて、筆を墨滴に浸す。
城の周りを埋める水濠のような髪が一房、はらりと落ちて頬に掛かった。

「フェイトー。」

奥の部屋から、澄んで良く響く声が呼びつける。
俺は溜め息を零して筆置きの上にそっと筆を置くと、声のした方へと向かった。

回廊を抜けて、仕切りになっていた襖を開くと、そこには赤い毛氈の絨毯の上に寝そべるジョニーの姿があった。
もう、朝食の時刻も過ぎて暫く経とうというのに、ごろごろとしだらがない奴だ。

「どうした。」

呼びかけると、ジョニーはくすくすと笑って煙管を指先で弄んだ。
相変わらず、こいつは道楽ばかりだ。

「フェイト、爪切ってくれよ。」

思わず溜め息を零しそうになった所でそんな事を言われて、思わず溜め息を飲み込んでしまった。

……おい、何だって?

「伸びてきて、楽器弾くのに邪魔なんだよ。」

しれっとそう言ったジョニーに俺は頭を抱える。
なんで、俺がそんな事をしなければならないんだ……。

「あのなあ、ジョニー……。」
「ん。」

小言を零そうと口を開いたが、ジョニーに手のひらを差し出されて渋々その手を取ってしまった。
ああ、こうやって甘やかすからいけない。

「俺は仕事の途中なんだぞ。」
「へいへい。」

そう言って、部屋の隅にあった小箪笥から爪切りを取り出すと、ジョニーはあからさまに眉を顰めた。

「フェイト……爪切りはダメだ。」
「何? お前が切れって言ったんだろう?」

ジョニーは小さく溜め息を吐くと、着物の懐から皮の包みを取り出して紐を解く。
そして中から爪やすりを取り出して、俺に手渡した。

「じゃあ、訂正しよう。磨いてくれ。」
「おい。」

これで、ふざけて言っている訳ではない所が性質が悪い。
ああ、もう、これだから三男坊は!

「お前って、本当に末っ子だな。」
「ああ、甘え上手だろう?」
「抜かせ。」

俺はジョニーの手を取りながら、渋々とその爪を磨く。
全く、シデン領の三男坊の癖に、モリュウの領主に爪を磨かせるのだから困ったものだ。

領主の俺よりよっぽど王族らしいじゃないか。

「フェイト、丁寧に磨いてくれ。痛い。」
「うるさい。」

口を尖らせるジョニーにピシャリとそう言って、俺は溜め息を吐く。
俺は仕事の途中だと言っているのに。

ああ、全く、本当に困ったものだ。









ジョニーさんとフェイトさんのお話

こいつらかわいすぎるだろー^▽^