忙しい。
目が回る程、忙しい。
ああ、ディムロスに会いに行きたいなと思ったが、どうにも忙しい。
そして、相手はオレより更に忙しい。
だから、最近めっきりディムロスに会っていない。
「あー……。」
勝手にディムロスの私室に入り込んで、勝手にベッドを借りて倒れ込んだ。
もう何時間寝ていないかは覚えていない。
恐らく、二、三日。
もしかしたら、四日程。
数えるのも馬鹿らしい。
ここで眠っていれば、さすがに会えるだろう。
シーツに顔を埋め、微かに香る残り香に気付いて思わず眉を顰めた。
匂いに気付いたのは不可抗力だが、これでは何だか変質者のようだ……。
もしくは、恋する乙女でも可。
まあ、どちらにせよ嬉しくはない。
非常に不名誉な称号だ。
オレはゆっくりと目を閉じた。
本当に眠い時ほど、欠伸なんて中々出ない。
頭の奥の奥にある芯の所が鈍くガンガンと響いている。
揺れるような吐き気と共にゆっくり、ゆっくり重力に引かれるように意識が下へと落ちていく。
駄目だ。
眠い。
オレはあっさりと眠りに落ちた。
目が覚めると、そこには丁度会いたいと思っていた人物がいた。
うん、計画通りだ。
「何をしているんだ、お前は。」
呆れの混じった溜め息を気にも止めずに時計を見遣る。
どうやら、まだ一時間も経っていないらしかった。
思っていたよりは、早く会えた。
「んー……。」
返事にならない声を返して、何とか布団から体を起こす。
辛い。
低血圧は厄介だ。
「ああ、もういい。寝ていろ。」
やれやれとディムロスはオレの肩に手を置くと、立ち上がって机に向かおうとした。
これから仕事をするつもりらしい。
それを引き留めようと、オレはその長い蒼髪を掴んで軽く引く。
「……っ、こら。やめんか。」
子供の悪戯を叱るように、ディムロスはオレを嗜める。
振り返った所を引き寄せてやれば、ディムロスは簡単にこちらへ倒れ込んで、オレを潰してしまわないようベッドに手を突いた。
その隙を狙って頬を挟み込むように両手で包むと、ディムロスも流石に慌てたようで身を捩る。
「ハロルド、お前……っ!」
逃げ切られる前にと、噛みつくようにキスをしてやった。
実際、少し噛んでやった。
「っ痛……!」
ディムロスが眉間を寄せる。
唇の端に微かに血が滲んでいた。
「一体、何なんだ……!」
気まずそうに目を逸らして言うその言葉に、思わず笑みが浮かんだ。
「会いたくなって。」
耳元でそっと呟く。
声が掠れた。
寝起きはやはり駄目だ。
オレは捕まえていたディムロスを解放すると、再びシーツの海に沈んだ。
眠い。
「本当に、何なんだ……!」
微睡む思考の外で、そんな呟きが聞こえた気がした。
久しぶりすぎて何が何だか……
これは、リハビリが必要ですね……