「お帰り、兄貴。」
部屋に戻ると、ハロルドが居た。
割り当てられた自室ではなく私の部屋を訪れる事も珍しくは無かったが、今日ばかりはかってが違うようだ。
「結果は?」
「いや、全く……惨敗だよ。」
先程イクティノスに実る筈も無い思いを打ち明けて来た所だ。
私の事を慰めでもしようと訪ねて来たのだろう。
奇怪な行動をする事で世間に知られているハロルドが、実はこんな所で気を遣う性格だったりする。
「ふーん、兄貴を振るなんて……イクティノスも贅沢だな。」
兄貴に惚れてる奴がこのラディスロウ内だけでもごろごろいるだろうに、とハロルドが呟く。
「私ごときをかい?」
そう言って苦笑すると、ハロルドは腰掛けたベッドの上でわざとスプリングを軋ませた。
上下の揺れが楽しいのだろう。
そういう所は未だに子供のままだ。
「兄貴。そういうトコ、ディムロスに似てきたね。」
面白そうに笑うハロルド。
何ともいえない気持ちで、奥にいるハロルドの元まで歩み寄る。
「そうかな。」
「そうだよ。」
ハロルドは手を伸ばして、私の頬をそっと両手で挟んだ。
引き寄せられて、小さな口付けを受け止める。
「慰めようか。」
私の唇を舐め上げて不適に笑うとハロルドは言った。
そんな言葉に少なからず驚きながら、ハロルドの顔を見遣る。
なるほど、そういう慰めか。
「それもいいね。」
くすりと笑って、ハロルドの膝を跨ぐ形でベッドに膝を突く。
ハロルドはそのまま私の首筋に唇を落とした。
「ん……、相変わらず不毛だね。」
全く同じ遺伝子を持った二人が。
それぞれに報われない想いを抱えた二人が。
「そういうのは不毛っていうんじゃなくて、滑稽っていうんだよ。」
私の上着のファスナーを下ろしながらハロルドが呟く。
苦いものを飲み下したような顔つきだった。
「そうかな……うん、そうかもしれないね。」
案外ロマンチストなのだ、この弟は。
「もういいから、黙ってろよ。」
そういわれて、口を塞がれる。
「んんっ……あ、ハロ……。」
そのまま脱がされかけた上着は肘までで止まる。
普段から羽織っているこの黒のコートと生地が絡んでいるのだ。
「ダメだよ、皺になる……。」
そのまま事を進めようとするハロルドを押し退けて上着を脱ごうとする。
しかし、それはハロルドによって差し止められた。
「いいじゃん、このままで。」
「汚れるよ。」
「汚しとけよ。」
何とも我が侭な奴だと思いながら、早々に諦める。
ハロルドが言い出したらきかないのはいつもの事だ。
「ん、ハロルド……。」
胸元に唇を寄せるハロルド。
そのまま突起に舌を這わせて、緩やかに刺激する。
右手の親指の腹で反対側の突起を柔らかく愛撫される。
左手は膝立ちのままの私の腰を支えていた。
「慰めるんだから、優しいほうがいいだろ?」
にやり、悪戯な笑みを浮かべてハロルドが問う。
「君は意地が悪いね……。」
その頬を両手で挟んで、その唇を食むように口付ける。
時折そろそろとそれを舌で舐めると、受け入れるようにハロルドも舌を絡ませてきた。
ハロルドの口内に舌を差し入れて、わざと音を立てながら酸素と唾液を攪拌する。
時折漏れるハロルドの吐息が熱っぽくなっているのが聞き取れた。
少し苦しそうにしていたので、その舌を吸い上げてから解放してやる。
「は……っ。」
ハロルドは大きく息を吸い込んだ。
「……ったく、どっちの意地が、悪いって?」
切れ切れになりながら此方を睨め上げる。
私と同じ色のアメジスト。
「勿論、君だよ。」
「はっ、よくいうよ……。」
にこり、微笑んでやるとハロルドは呆れたような顔で呟いた。
「先に焦らそうとしてきたのはそっちだろう?」
いいながら、ハロルドの首に手を回す。
「はいはい、兄貴はイタイのが好きな訳だ。」
ハロルドは笑って、突起の先端に爪を立てた。
「あっ、ん……そういう訳じゃ、ないけど……。」
「けど、何?」
ぐりぐりと意地悪くそこばかりを爪で引っ掻きながらハロルドが尋ねる。
「優しくされるのは、嫌……っ、あっ……。」
「じゃあ、乱暴にされたい?」
クスクスとハロルドが笑う。
「…………うん。」
段々と鈍くなっていく理性の元で私は呟いた。
それを引き金に私の足元からハロルドが手を忍ばせる。
「ほら、兄貴。スカート捲って。」
「スカートじゃないよ。」
「どうでもいいよ。」
そんなのはつまらない事だと吐き捨ててハロルドは布の裾を私に掴ませた。
普段ならば物の名称なんかはキッチリと定義通りにしなければ気が済まない性格の癖に。
そのまま私の下着をずり下ろすハロルド。
それを手伝って、私も膝を上げる。
「兄貴、結構やらしいよ。その体勢。」
足から下着を抜き取って、その辺へ放り投げながらハロルドは喉の奥で笑った。
「そのいやらしい体勢を誰がさせてるんだい?」
「オレでーす。」
冗談を言う子供のように笑いながらハロルドがその手を少し掲げる。
「でも、しちゃう兄貴も大概だと思うんだよね。」
何の前触れも無く、勃ち上がりかけていた性器を掴まれる。
「あ……っ、や、ハロルド……っ!」
思わず捲り上げていた布から手を離して、その肩口に掴まった。
「ダメだろ、兄貴。ほら。」
上下に擦り上げる手は止めずに、視線だけで再び布を捲り上げる様に示唆する。
「あ、んっ……んんっ……。」
「そうそう、ちゃんと見えるようにしといてよ。」
ハロルドに従って、震える手で何とか裾をぎゅっと掴んだ。
「あっ、いや……っ……。」
剥き出しの先端にそっと爪を立てながら、同時に胸の突起に吸い付く。
舌を這わせて、歯を立てて、それから強く吸い上げる。
「は、っあ……ハロ、ルド……っ。」
限界を訴えてハロルドの名を呼ぶ。
ハロルドはそれを聞いて楽しそうににやにやと笑うと、親指を使って外側から前立腺がある辺りをくっと押した。
「どうして欲しい?」
「言わなくても……っ、分かる癖に……!」
「勿論分かるさ、双子なんだから。でも、オレが言って欲しいんだよ。」
その言い方はずるい。
可愛い弟にそんな言い方をされたら、逆らう事なんて出来ないじゃないか。
「ハロルド……挿れて、くれ……。」
強請って、小さなキスを、角度を変えて幾度も贈る。
「ちょっと気、早くない?」
くすくすと嬉しそうに笑って、まずは慣らさなきゃとハロルドが言う。
すっかり失念していた事柄に思わず顔が赤く染まるのが自分でも分かった。
「前の潤滑剤、まだ残ってる?」
「君が前に見た時と同じだけ残ってるよ。」
顔を背けて言うと、ハロルドは満足そうにして枕もとの抽斗を探った。
その間にベッドの中央に移動する。
ベッドの淵ギリギリでの行為は中々に気が削がれる。
行為だけに集中できなくなってしまうのは何とももどかしい。
「あったあった。」
ハロルドが潤滑剤を手に持って此方へ戻ってくる。
「ほら、兄貴。足開いて。」
ハロルドに向かっておずおずと足を広げる。
左手で上体を支えながら、右手で下肢を覆う布を捲り上げた。
「兄貴、いつも言ってるだろ。足はもっと開かなきゃ。」
「あっ……!」
ハロルドは私の足を抱え上げるとそのまま割り開いて広げた。
「ハロルド……!」
「何を今更恥ずかしがってるんだよ。」
「あのね……。」
「ほら、指入れるからな。」
文句を言おうとした私を遮ってハロルドは潤滑剤を手に取った。
「あ、っ……だ、から……君はっ……!」
「ごちゃごちゃ言うなって。」
ハロルドが手に馴染ませた所為か潤滑剤は冷たく無かったけれど、中に入ってくる指に強い圧迫を感じた。
それでも潤滑剤を擦り付けるように何度も中で動かすと大分楽になった。
「どう?」
「んっ……だ、いじょう……ぶ。」
「そっか。」
こちらを伺うハロルドはそれを聞くと、ゆっくりと指を推し進めた。
「あ、あっ……くぅ……っ。」
「キツい?」
「へ、いき……。」
「じゃあ、指、増やすよ。」
ハロルドは何度か入り口の辺りで出し入れすると、今度は二本の指を差し入れて来た。
ばらばらに動く二本の指で前立腺の辺りを探って、擦り上げる。
「あ、んっ……は、ハロ……ルド……。」
「気持ちいい?」
ハロルドの白衣の胸元を掴むと、ハロルドは嬉しそうに笑ってそう尋ねた。
とてもじゃないが、まともな声が出ないので首を振って肯定する。
「ああ、っ……も、はや……く、して……。」
本当に、限界が近い。
ハロルドの髪にそっと指を差し入れながら、その頬を撫でる。
ハロルドは少し驚いた様だったが、指を引き抜くと私の体勢を変えさせた。
「ほら、四つ這いになって。」
もどかしい思いで、それでも何とか体を動かすと、ハロルドは自らのズボンのファスナーを下ろした。
入り口に性器を宛がわれる。
「ん、あっ……ハロルド……っ、はやく……。」
「……兄貴、えっろい。」
耳元で低くそう呟かれて、ゾクゾクした。
腰を確りと掴まれて、それを支えに中に押し進める様にしてハロルドが入ってくる。
「あ、あっ、あ……ハロルドっ、ハロルド……っ!」
目の前のシーツに縋りついて、その圧迫と快感に耐える。
「っ、は……兄貴……っ!」
「ああ、んっ……ハロルド……!」
中に押し込んで、ゆっくり揺すると性器が前立腺を掠める。
その快感がもどかしい。
「ハロルド……、あ、だめ……っ、はやく、して……っ!」
「……はは。ほんっと、えろいなあ。兄貴は。」
自らも腰を揺すりながら強請る。
ハロルドも息を切らせながら、それでも私の要望に応えて緩い律動を始める。
「お、ねが……おかしく、して……っ!」
お互いにふたつに分かれなければ。
ひとつのままで生まれて来ていれば。
私達はこんなにも歪んだ人間にならなかったんじゃないかと時々思ってしまう。
世の中の事象はその殆どが不可逆なのだから、生まれる前まで戻る事なんて出来ないけれど。
それでも何とか、こうして一つになる事は出来る。
勿論それは歪んだ形なのだけれど。
ぐちゃぐちゃの感情が胸中を駆け巡る。
ハロルドに乱暴に揺すられて、私はそれらの感情も丸ごと含めた白い欲をシーツの上にパタパタと吐き出した。
締め付けられた私の中のハロルドも、そのまま精を吐き出した。
じわりと奥の方で熱が溶け出すような感触が広がって、私はそのまま意識を手放した。
目を覚ますと、私の体は綺麗に清められていた。
もしかしなくともハロルドだろう。
相も変わらず律儀な性格だ。
隣で眠るハロルドをそっと引き寄せて腕の中に抱く。
暖かいその体温に、またうとうととまどろんでしまう。
セックスの最中もだけれど、それでも何よりこの瞬間が一番一つになっていると思った。
表の「インプリンティング」の続きにするつもりの話でした
が、何故かエロくなってしまったのでお蔵入りしてたやつです……
何でこんな事になったのかさっぱり分からない……^▽^;
しかし、途中でエロ書くのめんどくさくなって、早々に切り上げたのがバレバレですね……^q^