※女体化でアマツカさん宅の弟ハロルド(アルベルト)×拙宅の弟ハロルド(ロベルト)というお話です
閲覧の際はご注意を!
「じゃあ、今度の金曜日でいいかな。」
帰り道、アルベルトが呟いた。
「え。」
思わず、口から漏れたのはそんな言葉だった。
アルベルトはそんなオレの頭をぽんぽんと叩くと、にこりと笑って言った。
「アル、ロベルトが泊まりに来るの楽しみにしてるから。」
「…………あ、うん。」
嬉しそうな表情で手を振って帰り道の分かれるアルベルトに、何とか手を振り返す。
自分から言い出した事なのだから断るだなんて、そんな事は流石にできないけれど、今度の金曜というのは流石に心の準備が間に合わない気がする。
いや、期間が長ければ長いで、自分は悩みだしてしまうのだから、結局は意味がないのかもしれないけれども。
「金曜か……。」
指を折って日数を数える。
折れたのは親指と人差し指、つまりは明後日。
「どうしたもんかなあ……。」
思わず溜め息を零して、オレは一人で帰り道をとぼとぼ歩いた。
そして、当の金曜日。
オレは、とても下らない事柄で悩んでいた。
「ど、どうするべきなんだ……。」
自分でも下らないと思うのだから、他人から見たら相当に下らない事だろう。
そもそもこの悩みは二週間前に起因する。
「今日はしましまかー。」
アルベルトの声に、はたと下を覗き込むとスカートが捲り上げられている。
言葉が出てこないままに、思わず口を開閉させてしまった。
「っな、何、してんだよ……!」
漸く出てきた言葉でそう言って、慌ててスカートの裾を下ろそうとするも、アルベルトは悩んだような顔つきでスカートの裾を離さない。
「は、離せって……ばかっ!」
すると、ロベルトはいやに素直にスカートの裾を離して、真剣な顔つきで言った。
「ねえ、フリフリのパンツとか穿かないの?」
「はぁ?」
思わぬ言葉にまたもや絶句する。
こいつはまた、何を言い出すんだ。
「ロベルト絶対似合うって! ねえ、ピンクのフリフリ穿こうよー。」
「は、穿くかよ! ばか!」
「えー、ひどい……。」
冗談じゃない、何故オレがそんなものを穿かなければならないんだ。
寒すぎる。
「アルはロベルトがフリフリのパンツ穿いてるの見たいなあー。」
「やだよ! な、何でそんなことしなきゃいけないんだよ!!」
「いいじゃん、恋人のおねだり聞いてよー。」
こ、恋人……。
何でそんな恥ずかしい事をさらっと言えてしまうのだろう。
「だ、誰が恋人だよ……っ!」
「勿論、ロベルトとアルだよ。他に誰がいるの?」
世の中の恋人という恋人の存在を無視するかのようにアルベルトがさらっと呟く。
「それとも、ロベルトはアルの事好きじゃないの……?」
「う、いや……。」
「だから、恋人じゃないなんていうんだ……。」
悲しそうな顔で俯くアルベルト。
オレはどうにもこの顔に弱いのだ。
「そ、それは、そういう事じゃなくて……。」
「じゃあ、どういう事なの?」
迫るアメジストの色の瞳。
思わず一歩後ずさる。
「ねえ、アルの事嫌いなの……?」
「……き、嫌い、じゃない……よ。」
アメジストが悲しげに揺らぐ。
「嫌いじゃないって事は、好きでもないんだ……。」
「いや、そうじゃないって……。」
否定しても、アメジストは悲しげに揺らいだままだ。
泣くのではないかと思ってしまう。
いや、こいつがこんな事で泣く筈がない。
そうは思うのだけれど、その悲しげな表情を取り払ってやりたくて、ついつい口を滑らせてしまうのだ。
「……す、好きだよ。アルの事。」
「ホント?」
「ほ、本当だよ……。」
途端に、アルベルトの顔が柔らかくなる。
「アルもロベルトの事好きだから、じゃあやっぱり恋人だよね。」
「う……。」
にこにこと微笑むアルベルト。
その顔をまた曇らせたくないと思ってしまう。
「…………うん。」
「わーい、ロベルト大好きー!」
結局いつもこうなるのだ。
全く、どうしてだろう。
しかし、どうしてだかオレはこいつの悲しそうな表情には勝てないのだ。
「じゃあ、恋人のおねだり……。」
「それは却下!」
「えー。」
二週間前の出来事を思い返して呟く。
「……穿くべきなのか?」
目の前にはピンクのフリフリ。
そう、水曜に泊まりにいく事が決定した後に、取り敢えず買ってみたものだ。
「これは……そういう事をしに行くんだから、やっぱり穿くべきなんだろうか。」
そういった行為をしに行くのだから、相手の好みに合わせるのも大事かもしれない。
しかし、穿いてみてもハッキリ言って似合わないのだ。
ピンクが全ての女の子に似合うわけじゃない。
フリフリが全ての女の子に似合うわけじゃない。
つまり、どちらも似合わないオレにはどうしたって似合う代物じゃないのだ。
「どうしよう……。」
穿くべきか、穿かざるべきか。
本当に下らない事だと思いながら、ちらりと時計を見遣る。
「えっ、嘘!?」
時刻は五時四十三分。
一度家に帰った後、再び待ち合わせようという事でアルベルトとは六時に駅前に待ち合わせの予定だった。
「やばっ……!」
荷物をひったくるように取ると、慌てて家を飛び出した。
自転車の鍵を開けて、サドルに跨るとそのまま急いで駅前に向かった。
「あ、ロベルトー。」
アルベルトの姿を見つけて、減速する。
少し息があがっていた。
「ごめん……遅れた……!」
「ううん、大丈夫。ちょっとだけだよ。」
時刻を見ると、六時四分。
本当に、待たせるのは少しだけで済んだようだ。
「それにしても、ロベルトが遅れるなんて珍しいね。」
「ああ、ちょっと悩んでて……。」
言いながら、ふと考える。
今、自分がどちらを穿いているのかを……。
「何? 悩み?」
「い、いや、その……何を着ていこうかな、とか……そういう事で……。」
「なあんだ、そんな事か。ロベルトなら何着てもかわいいから大丈夫なのにー。」
まずい。
間違いなくフリフリのパンツを穿いてきた……。
しかも最悪な事に、悩みに悩み抜いていた所為でブラジャーはボーダーだ。
ちぐはぐにも程がある。
「お、オレ……やっぱ帰る……。」
「えっ!」
アルベルトが慌てた声を出した。
「ま、待ってよ! 何で?!」
「何ででも! とにかく帰るんだよ!!」
「え、やだ、帰んないでよー!」
アルベルトに腕を掴まれた。
真剣な瞳。
ドキリとする。
「ねえ、何で? ……やっぱりアルとはしたくなかった?」
「ち、ちが……。」
思わず視線を逸らす。
アルベルトのアメジストは酷く真剣だった。
何だかんだ言っていても、やはりアルベルトも不安だったのだろうか。
「じゃあ、何で?」
「だ、だって、その……ぱ、パンツ、が……!」
掴まれた腕を払いながら、小さくそう呟く。
アルベルトがきょとんとした表情でオレを見ていた。
「パンツが……何? あ、もしかしてもう濡れちゃったとか?」
「最低。」
自転車を押して引き返そうとするオレをアルベルトが慌てて追いかけた。
「あ、待って待って! だって他に理由が思いつかなかったんだもん!」
「無神経、オレ帰る!」
「えー……。あ、そっか。じゃあアルがロベルトの家にお泊りすればいいんだ。」
にこにこと笑いながらついてくるアルベルトをじとりとした眼差しで睨む。
「オレが言ってるのはそういう事じゃない!」
「遠慮しなくても好きなだけパンツ替えたらいいよー。」
「ち、違っ……! 別にパンツを間違えた訳じゃ……!」
言ってから、しまったと思う。
思わず見透かされたのかとさえ思ってしまった。
ああ、何故こんな所で口を滑らせてしまったんだろう。
「……ふうん、間違えたんだ?」
「や、ち、違うって……!」
「何、間違えたって……フリフリでも穿いてきた?」
「…………。」
「あれ、図星?」
「…………。」
核心を突いた発言に、思わず黙り込むしかなかった。
「ねー、当たり? アル正解?」
「…………お、お前が悪いんだぞ!」
「え?」
「だから……っ、フリフリが、好きとか……言うからっ!」
思わず泣きそうになってしまう。
恥ずかしい。
格好悪い。
「それで、フリフリ穿いてきたの?」
「…………っ。」
視線を逸らして小さく頷く。
「わーい、ロベルトかわいい! 見せて見せて!」
「やだ! 断る! 帰る!」
アルベルトはというと、泣きそうになっているオレに抱きついて、あろう事かズボンの尻を撫で回し始めた。
「ばか! 何してんだよ!」
「アルは着いて行ってでも見るよ!」
「何を自信満々に言い切ってるんだよ!」
尻に回された手を力ずくで振りほどいて怒鳴る。
アルベルトはというとへらへらした笑顔で、帰ろうとするオレの後に着いてきていた。
「な、何でついてくるんだよ……!」
「だって、アルは今日という日をずーっと楽しみにしてたんだよ? それなのに、それを突然すっぽかされたらさあ……ショックじゃん……。」
「うっ……。」
アルベルトの言う事も尤もだと思う。
オレはアルベルトの要求にずっと首を振り続けていたのだから、待っていたという意味では相当な時間アルベルトを待たせていた事になる。
「だって……だってさあ……。」
「んー?」
「下はフリフリ穿いてきたけど、焦ってたからブラジャーはボーダーなんだぞ。絶対、おかしいじゃん……。」
「そうなの?」
「…………うん。」
アルベルトはそれを聞くとニコリと笑ってオレの腕を引いた。
「なーんだ、全然問題ないよ。アルはちぐはぐでも萌えます。」
「も……っ!?」
「ほらほら、早く家行こうよ。」
「え、あ、や、で、でもさあ……。」
「ベッドメイキングも済んでるのにー。」
その言葉に、またバカみたいに口をぱくぱくと開閉させてしまう。
オレは魚か!
「ば、っか……! お前はまた、往来でそういう事を……!」
「えー、だって下着を気にするって事は見せる状況になるって事でしょ? ベッド上でしょ?」
「そ、そりゃそうかもしれないけどさあ……。」
自分もパンツだの何だの大概な事を言っているのだが、それでも往来でそういう事を言われるのは恥ずかしい。
せめて、声を潜めろ。
「ほら、早く! 時間が惜しい!」
「う、うん……」
「わーい。」
アルベルトに急かされて、反射で頷いてしまう。
無邪気に喜ぶアルベルトに、思わず溜め息が零れた。
「………………なんだかなあ。」
「えー?」
「ホントにヘンだよ。しらないよ。」
オレが未練たらしく文句を言うと、アルベルトはにこにこと嬉しそうに笑って言った。
「いいよ。アルのことでそんなに悩んでくれたなんて嬉しいな。」
「…………………っ!」
思わず言葉を失った。
「ロベルト、ありがとうね。」
うう、どうしよう、反論が思いつかない。
顔が熱い……。
「じゃあ、アルの家行こっか!」
結局、先導されるままにアルベルトの家に向かうのだった。
アルベルトの家は駅からすぐ近くにあった。
徒歩で十分程の距離。
「ここでーす。」
瀟洒な近代建築といった風のアルベルトの家は、ハッキリ言ってデカかった。
「え、ここ……?」
「そう、ここ。」
オレの家もしばしば友人には大きいと言われるが、それよりも更に大きい。
アルベルトが門を開けて、オレを中に招き入れる。
オレは恐る恐るそれに従って庭へと足を踏み入れた。
「自転車、この辺にでも止めておいてよ。」
取り敢えず言われた通りに、それでも隅の邪魔にならない所へそっと自転車を止める。
オレが自転車を止めた事を確認すると、アルベルトはそのままオレを手招きして玄関へと足を進めた。
「ただいまー。」
言いながら、アルベルトが玄関を開ける。
「おかえりなさい。」
中から、エプロン姿のカーレルさんがぱたぱたと小走りでやって来た。
手には赤い柄のついたお玉を持ったままである。
「いらっしゃい。あ、ご、ごめんね。料理をしていたものだから……!」
カーレルさんはオレの視線に気付くと、頬を赤く染めながらお玉をサッと背に隠して言った。
「い、いえ……お邪魔します。」
オレが恐る恐る頭を下げると、カーレルさんはにこりと柔らかく微笑んでスリッパを出してくれた。
「アルベルトがお友達を連れてくるなんて言うから張り切っちゃって……。」
「だってさ、ロベルト。」
困ったような顔でお玉の説明をするカーレルさんと、嬉しそうな顔をするアルベルト。
出して貰ったスリッパに足を通しながら、アルベルトの未だ見た事のない表情に複雑な気持ちになる。
カーレルさんはアルベルトの双子の姉妹だ。
仲がいいのは当たり前だ。
それに妬くだなんてどうかしている。
「あ、済みません。何か、気を遣わせちゃったみたいで……。」
「ううん、私がもてなしたくてしている事だから気にしないで。」
「ほら、取り敢えず荷物置かなきゃ。部屋行こうよ。」
アルベルトに急かされて、カーレルさんに小さく頭を下げるとその後を追った。
人の家の階段というのは慣れないものだと思いながら、アルベルトに続いてステップを上る。
「あ、もう直ぐごはん出来るから、そしたら呼ぶからねー。」
階段下からカーレルさんが声をかける。
「わかったー。」
アルベルトがそれにそっけない返事を返す。
オレはどうしたらいいのか分からなくて、取り敢えず、カーレルさんに向かって再び小さく頭を下げた。
「で、ここがアルの部屋です。」
「広いな……。」
「そう?」
入り口脇に荷物を置いて、部屋を眺める。
アルベルトの部屋は全体的に白を基調としていて、適度に女の子らしい可愛い小物で彩られた部屋だった。
ピンクの籠をビーズで装飾した小物入れ、赤と白の水玉の化粧鏡、ベッドの枕元にはふかふかのテディベア。
「どう? ちゃんと片付けてあるでしょー。」
「あ、うん。そうだな……。」
っていうか、ホントにベッドメイクされてるし。
「普段は散らかしっぱなし、服とか下着とか出しっぱなしだからさあ。」
「普段から片付けろよ……。」
「うーん、普段からはちょっと面倒くさいかなあ。」
いつの間にか背後に立っていたアルベルトが、そのまま抱きついてくる。
「え、わっ、何……?」
「いや、ロベルトがずっとベッドの方ばっかり見てるからさあ。そんなにしたいのかと思っちゃって。」
「はぁ!?」
抱きついた状態から、そのまま胸元に手を伸ばされる。
「ばっ、ばか! そんなつもりで見てた訳じゃねーよ!」
「じゃあどんなつもりだったの?」
「う……っ、ホントにベッドメイクされてる、なあって……。」
きっちりと整ったシーツに、柔らかそうな布団が畳まれた状態で乗っている。
「やっぱりそういうつもりなんじゃん。」
「ち、違う……!」
そのまま耳を食むアルベルトを無理やりに押し退けようとする。
しかし、体格差の所為でなかなか上手く引き剥がせない。
「ね、もういいでしょ……?」
「ばか……か、カーレルさんが、ごはん出来たら呼ぶって言ってただろ……!」
「いいじゃん。姉貴は別に怒んないよ。」
「怒るとかそういう問題じゃ、ない……だろ!」
辛うじてアルベルトの体を押し返す。
アルベルトは渋々ながらオレの上から退いた。
……危なかった。
もう少しで本当に押し倒される所だった。
「アルベルトー、ロベルトちゃんー。ごはんだよー。」
やれやれと溜め息を吐いた丁度その時、階下からカーレルさんの呼ぶ声が聞こえた。
「は、はーい!」
慌てて返事をすると、不貞腐れたような表情のアルベルトを置いて急いで部屋を出た。
……本当に、その場の空気に流されなくて良かった。
階下に下りてみると、カーレルさんが迎えてくれた。
後から不服そうにアルベルトが着いて来る。
「食べられないものとかあったら、残してくれていいからね。」
「あ、大丈夫です。」
言いながら、カーレルさんの作ってくれた料理に手をつける。
正直にいうと苦手なものもあったが、味付けの所為かそんなに気にはならなかった。
「ロベルト、ピーマン嫌いでしょ。」
オレの皿によそった分から、丁寧にピーマンだけを選り分けてアルベルトが食べていく。
「あっ、ば、ばか! 何するんだよ!」
「嫌いなのに無理して食べなくてもいいよ。」
「え、そうなの? ごめんね、ロベルトちゃん。」
カーレルさんが困ったような顔をする。
アルベルトの表情は未だに不機嫌そうだ。
……カーレルさんの前で言ったのは、わざと、なんだろうな。
アルベルトの子供っぽさに溜め息を吐きながら、オレはもう一度皿にピーマンをよそった。
「いえ、苦手なんですけどこれは気にならないです。カーレルさんって料理お上手なんですね。」
「無理しなくていいんだよ……?」
「ホントに美味しいですから。」
そう言いながら、笑顔で料理を食べるとカーレルさんはちょっと困ったような顔で笑って言った。
「でも、私はピーマンが好きだから全部食べられちゃうと困っちゃうな。」
カーレルさんの大人な気遣いに思わず顔が赤くなるのが分かった。
「…………すみません。」
「いえいえ。」
「でも、本当に気にはならないです。」
「そう? ありがとうね。」
カーレルさんが嬉しそうに笑いながら、オレの皿からピーマンを避けてくれた。
カーレルさんの柔らかい笑顔につられてオレも笑った。
「ご馳走様でした。」
「お粗末さまでした。」
料理を食べ終わると、カーレルさんはお皿を下げながら冷蔵庫を覗いた。
「デザートは食べられそう? あ、でも女の子にはちょっと多いかなあ?」
「いえ、オレ……あ、いや、私は平気です。」
一人称を言い直したことに、カーレルさんがくすくすと笑う。
同じ年とは思えない、とても大人っぽい笑い方だった。
「じゃあ、はい、どうぞ。」
カーレルさんが出してくれたのは林檎のコンポートだった。
「シナモンはかける?」
カーレルさんはそう言ってシナモンの小瓶をオレの前に差し出した。
「う、いえ、その……すみません。」
「ふふ、そっか。」
オレが素直に謝ると、カーレルさんはまたくすくすと笑って小瓶を引っ込めた。
「アルもいらなーい。」
「え、どうして……?」
普段はかけるじゃない、とカーレルさんがきょとんと不思議そうな顔をする。
機嫌の悪そうなアルベルトの表情に、嫌な予感が過ぎる。
「だって、シナモン食べたらロベルトがキ……。」
「なんでもないです!」
その口を掌で慌てて塞いで、カーレルさんに微笑んでみせる。
嫌な予感は当たりだ。
口を塞いでおいて正解だった。
「え、でも……。」
カーレルさんは不思議そうな顔をしていたが、オレはそのまま笑顔で押し切って、慌ててデザートを食べた。
「ばか! 何でカーレルさんの前であんな事言うんだよ!」
部屋に戻ってから、アルベルトを問い詰める。
『ロベルトがキスさせてくれないから。』だなんて言われた日には、カーレルさんに顔も合わせられない。
アルベルトはむすっとした表情のまま、上からオレを抱きしめた。
「あ、アル……?」
あまりに強く抱きしめるので、呼吸もしにくいくらいだった。
「だって、ロベルトはアルのなのに、姉貴ばっかり気にするから悪い……!」
「はぁ……?」
予想外にも程がある言葉を呟いたアルベルトは、やはり不服そうな表情のままオレに口付けた。
「っ、ん、何……っ?」
「ロベルトはアルに会いに来たんだから、アルだけ見ててよ。」
縋るようなアメジストに、思わずその背を抱きしめ返した。
「はあ、お前ホントばか……。」
「何で……。」
「オレだって、お前がカーレルさんに笑いかけてるの見てやきもち焼いてたのに……。」
そう言うと、アルベルトは驚いたように目を見開いた。
「え……?」
「ばか。ホントばか。」
そう言うと、アルベルトは小さく噴き出して笑い出した。
「なーんだ……お互いに嫉妬してたんだー。」
「…………うるさい。」
改めてそんな言葉を使われると恥ずかしくなってくる。
アルベルトの肩口に顔を埋めて呟く。
「ロベルトも妬いてくれてたなんて……アルは嬉しいです。」
「あー、もー、うるさいってば……。」
ぎゅうぎゅうと抱きつくアルベルトを押し返して言うと、アルベルトはへらへらと嬉しそうに笑った。
「ロベルト、好き……。」
「え、あ、アル……。」
アルベルトの抱きしめる力が強くなる。
そのまま吸い付くような口付けが振ってきて、オレは戸惑いながらもそっと目を閉じた。
「もう、いいよね……?」
「あ……アル……。」
アルベルトが耳元で囁いたその瞬間。
「二人ともーお風呂沸いたよー。」
階下からカーレルさんの声が聞こえた。
「あっ、はーい!」
言いながら、アルベルトの体を引き剥がして廊下に顔を出す。
「……………………。」
「…………いや、ごめんって。」
振り返った室内で、アルベルトはやはり不服そうな顔をしていた。
「ふぅ……困ったな……。」
拗ねるアルベルトを何とか説得して、そしてカーレルさんの勧めもあって、オレは先に風呂を頂く事になってしまった。
家人より先に入るというのは何となく気が引ける。
一通り、シャンプーやボディソープの説明を受けて、オレは一人で風呂に入っていた。
アルベルトは着いてこようとしていたが、そこも何とか説得した。
流石にそれは恥ずかしい。
「あー、でも早くあがらないと……またアルが拗ねるな……。」
早くあがってこいと念を押された事を思い出す。
そうだ、それでなるべく早く体を洗ったのだった。
オレは湯船から体を上げると、シャワーを軽く浴びて浴場を後にした。
バスタオルで体を拭いて、パジャマに袖を通した。
バスタオルはふわっとしたいい匂いがした。
いつもアルベルトからしている香りだ。
髪を拭きながら外に出ると、アルベルトが待っていた。
「あれ、お前ずっとそこに居たの……?」
「ずっとじゃないよ。上に服取りに行ってたし……。」
そういうアルベルトの手元にはパジャマらしきものがあった。
「先に部屋戻っててよ。」
「うん、分かった。」
アルベルトにそう頷いてから、洗い物をするカーレルさんの所に顔を出すと風呂から上がった事を伝えた。
「すみません、お風呂先に頂きました。」
「ああ、湯加減はよかったかな?」
「はい……あっ、今はアルベルトが入ってます。」
洗い物を手伝おうかと思ったが、それをやるとアルベルトがまた拗ねるんだろうなと思った。
そして、カーレルさんにもやんわりと断られる気がする。
カーレルさんには申し訳のない事だが、ここは素直にアルベルトの部屋に向かっておこう。
「じゃあ、上がって待っててやってくれるかな。」
「あっ、はい。」
カーレルさんはそう言って笑った。
どうやらアルベルトが拗ねている理由もお見通しらしい。
「ごめんね、すごくやきもち焼きでしょう。」
くすくすと笑うカーレルさんにオレは小さく首を振った。
「その、オレも結構やきもち焼くんで……お互い様かな、って……。」
そう言うとカーレルさんは噴き出した。
「えっ、カーレルさん!?」
「あ、ご、ごめんね……ロベルトちゃんが可愛らしいから……つい……。」
オレが可愛い!?
何処がだ……!
そうは思ったが、カーレルさんに詰め寄る訳にもいかない。
何ていったってカーレルさんなのだから。
……よく分からない理屈のようだが、とにかくカーレルさんには反論ができないのだ。
「素直だね、君は……。」
おかしそうに目尻の涙を拭うカーレルさん。
何だか照れ臭くなって、頭から被っていたバスタオルで口元を押さえた。
「えっと、あの、それじゃあ失礼します……。」
「ああ、うん。引き止めちゃってごめんね。」
カーレルさんに頭を下げるとオレはキッチンを後にした。
アルベルトの部屋に戻って、ベッドサイドに腰掛けて髪を拭く。
「ふう……。」
改めて部屋の中を見回す。
本当にアルベルトらしい部屋だと思った。
ふと、枕元にあるテディベアを手に取ってみた。
「コンニチハ、ワタシハ、アルベルト。」
……オレはアホか。
やってから恥ずかしくなって、テディベアをそっと元の位置に戻した。
その瞬間。
ガチャリ。
ドアが開いてTシャツにスウェット姿のアルベルトが入ってきた。
「お待たせ、ロベルト。」
「え、あ、う、ううん! そんなに待ってない!」
「そう……?」
髪を拭きながらドライヤーの所へ向かうアルベルトを視線だけで追う。
ドライヤーで丹念に髪をかわかすアルベルトを見て、ああ、女の子だなあと思う。
髪が長い所為も勿論あるのだろうが、オレはそんなに丁寧に髪を乾かした記憶がない。
「おいで、ロベルトもやってあげるよ。」
自らの髪をあらかた乾かした後、アルベルトが言った。
「え、いいよ……。」
「枕濡れちゃうよ。」
そう言われては行かないわけにもいかない。
オレは渋々ベッドサイドから立ち上がると、先程までアルが腰掛けていた椅子に座った。
「乾かしすぎると毛先が傷んじゃうからね……。」
「任せます……。」
丁寧な手付きでオレの髪にドライヤーをあてていくアルベルト。
目を瞑ると、ドライヤーの暖かな風が気持ちよかった。
「……だよ。」
アルベルトが何か呟く。
「何? ドライヤーの音で聞こえない。」
オレが言うと、髪を乾かし終わったらしいアルベルトはドライヤーのスイッチを切ってこう言った。
「くまの名前はロベルトだよ。」
「…………っな、お、お前……さっきの見て……!」
醜態を見られていた事に、顔が一気に紅潮した。
「ホントかわいいなあ、ロベルトは……。」
後ろから抱きしめられる。
Tシャツ越しに胸が当たって……いや、当てられていて、ますます顔が赤くなるのが分かった。
「あ、ああああアル……!」
「ロベルト……ね、ベッド行こ? アル、散々我慢したよ……?」
耳元でそっと囁かれる。
「…………う、ん。」
小さく頷くと、アルベルトはにっこりと笑ってベッドまでオレの手を引いた。
恐る恐るアルベルトを見上げると、アルベルトはオレの体をベッドにゆっくりと倒した。
「ロベルト、怖い……?」
「こ、怖くは……ないけど……。」
「けど……?」
覆い被さるアルベルトの視線から逃れるようにそっと顔を逸らす。
「……ちょっと、恥ずかしい……かな。」
そう言うとアルベルトは小さく笑った。
「ロベルトかわいい。」
言って、小さく首筋にキスを落とす。
「……っ、アル! かわいいって言うなよ!」
「怒った顔もかわいい。」
二つ、三つとキスを落とされてパジャマの前がはだけられていく。
「あれ、ボーダーのブラは外しちゃったの?」
「寝る時は……普通、つけないもんだろ……。」
アルベルトがにやにやと笑う。
「”寝る”時は別につけてくれてもいいけどね。」
「…………!」
「アルが外してあげるからさあ。」
「ばか……!」
アルベルトの指がそっと腹をなぞった。
背筋をぞくぞくとしたものが這い上がる。
「ロベルトが待ちきれなくて、外してたのかと思っちゃったよ。」
「ば、ばか……そんな訳ないだろ……!」
「へえ……。」
含み笑いをして、アルベルトがパジャマの布越しに胸の突起を摘み上げた。
「ん、あっ……やめ……!」
「でも、もう起ってるじゃん。」
「うう、っ……あ……っ。」
「ホントは待ちきれなかったんじゃないの?」
「や、ちが……っ!」
アルベルトが首筋にキスを落としながら呟く。
「へえ、ホントに?」
「……たりまえっ、だろ!」
「じゃあロベルトは、何にもしてなくても普段からこんなに乳首起ってるんだ。やらしいなあ。」
「ちが……う……。」
ふるふると首を振ると、アルベルトは楽しそうに笑って更に突起を弄び始めた。
「違うの? じゃあやっぱり待ってたんだ?」
「うっ、ちがう……。」
「ねえ、どっち?」
「や、ちがうちがうちがう……!」
首を振り続けるオレの口を塞ぐように、アルベルトが深く口付ける。
「ふっ、んんっ……。」
唇を舐め上げられる。
緩んだ口元から、そのまま舌がそっと進入してきた。
「は、ぁっ、ロベルト……。」
「……っ、ふ。」
息継ぎをして、角度を変える。
それでももたない。
苦しい。
「……っぁ……は、あっ……あ。」
「……ロベルト、ごめんね。苦しかった?」
「……っ、へい……き。」
漸く離された口から唾液が伝って零れた。
袖で拭おうとしたがその手は阻まれて、それをアルベルトに舐め上げられた。
「……うっ、何して。」
「ロベルトってホントやらしいなあ。」
「ちがう、ってば……。」
アルベルトが、パジャマの前を全てはだけさせた。
前を広げて晒される。
「あ、この間つけたキスマーク……まだ残ってる。」
「え……。」
「もう一回つけとこうか。」
右胸の内側の柔らかい部分に、アルベルトが音を立てて吸い付く。
「ん、あ……っ、アル……!」
むず痒いようなその感覚に、思わず身を捩らせる。
アルベルトはそんなオレが動かないように、上から確りと押さえつけた。
「…………っ!」
「……ん、ついたよ。」
ちゅっと音がしてアルベルトが離れた。
ペロリ唇を舐め上げる仕種が何だかとてもエロティックだ。
「ほら……。」
アルベルトに促されて見遣ると、赤く鬱血した痕が残っている。
「う、アル……っ。」
「ロベルト、いいよね……?」
はだけた胸の突起に、アルベルトが舌を這わせる。
「う、やっ……あ、アル……!」
舌でゆるゆると先端を刺激して、音が出るくらい強く吸われる。
反対は指先で弾かれて、ぐりぐりと摘み上げられる。
「んんっ、あ、や……っ!」
刺激に耐えようと、アルベルトの肩に手を添える。
「う、アル……っ、あ、あっ……。」
しかし、それがアルベルトの気に入ったらしく、行為を助長させてしまった。
「あ、あっ……やっ、ん……も、う……!」
その肩を緩い力で何とか押すと、何とかアルベルトは口を離してくれた。
「……っは、ロベルトよかった?」
「なに、言って……。」
「でもほら、随分とよさそうじゃん。」
アルベルトの指がすっと突起をなぞる。
先程まで吸われていた部分はぷくりと赤く起ち上がっていた。
「うっ……やだ……!」
思わず視線を逸らす。
「かわいいのに。」
アルベルトはくすくすと笑って、薄い胸を揉みしだきながらパジャマのズボンの内側へと掌を滑らせた。
「あ、や、そこは……!」
「へえ、もう濡れてる……。」
下着越しに触れられただけで体が反射でびくりと震えた。
どうしよう、恥ずかしい。
「ロベルトってエロい。」
「ち、ちがう……!」
思わず顔を逸らして袖で覆うと、アルベルトはおかしそうにくすくすと笑った。
「大丈夫だよ、アルもエロいから。」
そう言ってオレの腕を掴むと、アルベルトは自らの胸元へと宛がった。
「ほら、揉んでみなよ。」
言われた通りに恐る恐る指を動かすと、シャツ越しに突起が起ち上がっているのが分かった。
「ね、アルもロベルトに触ってるだけでこんなになっちゃうんだよ?」
「うん……。」
アルベルトの服を軽く引っ張りながら呟く。
「アルも、脱げよ。」
オレだけが脱がされているのは何だか癪だ。
アルは軽く笑うと頷いた。
「いいよ。」
そのまま何の躊躇いもなくシャツを脱いでいく。
「下も脱ごうか?」
そう言うと、オレの返事も待たずにグレーのスウェットを脱ぎ捨てた。
「あ、アルも濡れてるよ。」
「え。」
「ほら……。」
アルベルトが、オレの腕を掴んで自らの下肢に伸ばさせた。
じとりと湿った布の感覚が掌に伝わる。
「ね……?」
「う、うん……。」
オレはそれだけで恥ずかしくなってしまって、思わず顔を背けた。
「じゃあ、ロベルトも脱いでよ。」
「えっ!?」
言うなり、アルベルトはオレのパジャマのズボンを引き摺り下ろした。
「え、あ、アル……待って……っ!」
抵抗を試みるが、あっと言う間に摺り下げられて下着が顕になる。
「あれ、フリフリじゃない……。」
「き、着替えたよっ……! さっき、風呂入っただろ!」
「えー。」
アルベルトは不服そうな声を上げたが、暫くすると諦めたのか、そっと内腿を上に撫で上げてきた。
「……っ、く。」
「まあ、いいや。それは今度見せて貰おうっと。」
「こ、今度って何……っ、あ……。」
今度が既に予定されている事に驚きながら、身を捩る。
アルベルトは太ももの内側に顔を近づけると、小さなキスを落として回った。
「あ、そ、そんなとこ……顔近づけんな……っ!」
「なんで?」
「何でって、そ、そんなとこに顔持ってこられると……。」
そんな所に顔を近づけられて、恥ずかしくない筈がない。
「吐息が当たるだけでも辛い?」
「ちが、そんな事、言ってない……!」
アルベルトがくすくすと意地悪く笑う。
懸命に首を振るも、アルベルトはそれを笑って受け流してしまった。
「じゃあ、キスマークとかつけてもいいよね。」
「えっ……。」
「大丈夫なんでしょ?」
「う、それは…………。」
アルベルトがにやりと笑う。
「そうだな。アルベルトが大丈夫なら、腿の付け根にでも痕つけちゃおっかな。」
「な、何言って……!」
両の脚がそのまま割り開かれた。
「あっ、や、アル……っ!」
「んっ……。」
脚の付け根にアルベルトが吸い付く。
恥ずかしくて頭がどうにかなってしまいそうだ。
「あ、や、やだ……っ、アル……!」
「っは、ん……脚、震えてる……。」
言われて意識すると、確かに脚が震えていた。
それを知覚してしまうと、更に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「や、やだ、アル、やめて……っ!」
「ムリ……まだ、痕ついてない……。」
アルベルトはそう言うと、また脚の付け根に吸い付いた。
「ん、う……顔、離して……っ!」
そう頼んでみたが、アルベルトは聞く気配もなく内腿を吸い上げた。
「ん、んっ、ほら……ついた、よ……。」
「…………っ、ふ。」
アルベルトが唇を離す頃には、オレの息は限界まで上がっていた。
声を押し殺す事だけに必死になって、呼吸を忘れていた所為だ。
「は、ぁ……っ……あっ……。」
「ロベルト、声出さなきゃ辛いよ?」
「あ……っ、うう……。」
息がまだ整いきらない為、首だけを振って答える。
アルベルトがオレの赤い髪を優しい手付きで撫でた。
「ごめん、ムリさせすぎたね……大丈夫……?」
「へ……い、き……。」
「アル、ちょっと焦りすぎてたみたい……ロベルト相手で緊張、してたんだと思う……。」
落ち込むアルベルトのその掌をそっと取って、頬に添える。
「平気だって……オレ、アルの事……好きだからさ……。」
アルベルトのアメジストが驚きに見開かれる。
「だから、大丈夫……。」
そのままぎゅうぎゅうと抱きつかれた。
「ロベルト、大好き!」
「わっ、ば、ばか! 痛いよ!」
「え、あああ、ご、ごめん!」
慌てて離れるアルベルトが何だかおかしくて、思わず笑ってしまった。
するとアルベルトも照れたように笑い出した。
「えっと、じゃあ……下着、脱がすけど……いい?」
「…………うん。」
アルベルトがオレの脚からそっと下着を引き抜いた。
「脚、開いてよ……。」
「流石にそれは、恥ずかしいよ……。」
「大丈夫、少しでいいから……。」
アルベルトに耳元で囁かれて、僅かに脚を開く。
「ん、ありがと。」
アルベルトがオレのこめかみにちゅっと音を立ててキスをした。
そしてそのまま、するすると内腿のラインをなぞるように、アルベルトの指が上がっていく。
「あ、アル……っ。」
「ロベルト、だから脚閉じちゃダメだってば。」
その感覚に思わず閉じてしまった脚を、またゆっくりと開く。
「触る、からね……。」
「ん…………。」
性器の隙間を押し割るようにして、アルベルトの指が形をなぞる。
「っ、あ……んっ……あ、やっ……。」
「ロベルト、凄いヌルヌルしてるよ……。」
「はっ、い、言うな……っ、ばか……ぁっ……。」
しかし実際はアルベルトに言われた通り、そこはぐちゃぐちゃに湿っていた。
「ホントかわいいなあ、ロベルトは。」
「う、あっ……か、かわいく……な……。」
「こんな時にまでそんな言い草しなくても……。」
アルベルトが呆れたように溜め息を吐くのが分かった。
文句を言ってやろうかと思ったが、それすら上手く言葉にならなかった。
「ロベルト、かわいい。」
アルベルトの指がゆるゆると敏感な部分を擦り上げる。
「あ、あ……っ、や……ひっ……。」
「ロベルト、気持ちいいんだ?」
「や、やだ……っ、言うな……っ!」
満足気に少し笑って、アルベルトがキスを送る。
それに応えるようにオレは目を閉じた。
「これだけ濡れてるなら、大丈夫かな……。」
「…………っあ……ア、ル?」
「……ね。挿れていい?」
唇を離すなり、アルベルトが呟く。
不安がるオレに囁くように言って、指を入り口に宛がった。
「まだ、ダメ……?」
「んっ……き、聞くなよ……そんなの……っ。」
「聞くよ、ロベルトの口から聞きたいもん。」
じりじりと焦らすようなやり口に、脳みそがじんじんと痺れるような心持ちだった。
「う、アル……。」
「言ってよ、ロベルト。」
「や、言えな……。」
ふるふると首を振る。
流石にそんな事は口にできなかった。
「ロベル……。」
何か言いかけたアルベルトの首を引いて、無理矢理口付ける。
慣れていないからか、それとも精神的に切羽詰っているからか、随分下手くそなキスだったと思う。
「……っ、アルベルト、好きだ。」
「ロベルト……。」
アルベルトはとても驚いたようだった。
「っ、ごめ、ん……これ以上は……。」
「ううん、ありがとうロベルト。アルは凄く嬉しかった。」
アルベルトはそう言って、オレの唇に小さく口付けた。
「……じゃあ、挿れるからね。」
アルベルトの言葉に小さく頷いて、恐怖からシーツを掴んだ。
「…………ん、っ。」
「大分スムーズ……ねえ、痛くない?」
「あ、っ……だい、じょぶ……。」
一本だけ差し入れられた指はあっさりと中に入った。
「じゃあ、動かすよ。」
「…………うん。」
アルベルトが指を曲げ伸ばしして、内壁を擦る。
「う、んんっ……あっ……。」
「大丈夫そうだね……もう一本挿れるよ……。」
「あっ、待っ……!」
そこは二本目の指もするりと飲み込んで、くちゅりといやらしい音を立てた。
「っあ、あ、やぁ……っ!」
「ねえ、どう? この辺……?」
アルベルトの指が内部でバラバラに動く。
内壁の弱い部分を擦られて、背中に弱い電流を流されたみたいだった。
「あ、や、やぁ……っ、アル……っ!」
「ロベルト、気持ちいいんだ……嬉しい。」
「う、あ、あっ……!」
そこを更に強く擦られる。
「っ、あ……アル、アル……!」
「ロベルト……!」
背筋を何かぞくぞくとしたものが這い上がってくる感覚に、シーツを手放して思わずアルベルトの肩に縋りついた。
「……っ、アル……すき、だ。」
呟くと同時に限界を迎えた。
瞑った目蓋の裏がちかちかと白くなるような感覚。
全身の筋肉が硬直して、次の瞬間思わずくたりと脱力した。
酷く重く感じる体を、その場に横たえる。
とにかく動きたくない……。
「イっちゃったんだ。」
アルベルトがくすりと笑う。
「う、るさい……。」
「ロベルトかわいい。」
「るさい……。」
最早、反論する気力も起こらなくて、ただそれだけを小さく呟く。
アルベルトはオレの体を支えながら言った。
「指、抜くよ。」
「……うん。」
アルベルトが指を引き抜くと、中からどろりとしたものが溢れてくるのが分かった。
「んっ…………。」
「ロベルト凄いぐちゃぐちゃ。」
「言うなってば……!」
思わず恥ずかしくなるような発言に眉間を寄せる。
すると、アルベルトはこちらに寄り添ってきて頬に小さくキスをした。
「……ね、アルのもしてよ。」
そう言えば、アルベルトに翻弄されてばかりで、自分が何かをした覚えはなかった。
「結構、キツイんだよね……。」
言いながら、アルベルトが自らの下着を引き下げる。
「ね、ロベルト……。」
「あ、う、うん……。」
アルベルトがしたようにそっと脚のラインをなぞって、性器の隙間に指を差し入れる。
そこは暖かくて、酷くヌルヌルしていた。
「うわ、すご……い……。」
「んんっ、ロベルトも……言うじゃん……。」
少し苦しそうな表情のアルが笑う。
言われてみれば、自分は散々そんな事を言うなとアルベルトに喚いたのだった。
「ご、ごめん……!」
「アルは別にいいけどね。」
それより動かして。
アルベルトの言葉に、ゆっくりと指を動かす。
「ん、ロベルト……。」
アルベルトが熱っぽい声で呟く。
それに何とか応えようと、先程の見よう見まねで指を動かす。
「こ、う……?」
「あ……っ!」
アルベルトの嬌声が上がる度にいちいちビクリと身を竦ませている自分はさぞや滑稽だろう。
どうしたらいいか分からないままに、恐る恐る敏感な突起の部分に指を這わせる。
「ん、んんっ……ロベルト……。」
アルベルトの体がふるふると震えた。
段々と早くなっていくアルベルトの呼吸に合わせて、自分の呼吸も上がっていくようだった。
「あ、の……さ。」
「なに……?」
小さな声でポツリと呟く。
「指、挿れても……大丈夫……?」
質問しておいて、自分で真っ赤になっているのが分かった。
どうしよう、恥ずかしい。
顔が熱い。
ドキドキしながらアルベルトの回答を待っていると、くすくすと笑う声が聞こえた。
「やっぱりロベルトも聞くんじゃない。」
「え、あ……そ、それは……だって不安だし……。」
そうだ、これもアルベルトに自分が尋ねるなと言った事だった。
「アルもだよ。……アルも、ロベルトが大丈夫かどうか不安だから。」
「…………そ、っか。」
「うん。」
オレは恥ずかしがってばかりで、アルベルトの事なんてちっとも考えてなかったんだ。
ごめん。
そう言って謝ろうとした瞬間にアルベルトが呟く。
「まあ、ロベルトがあんまり可愛いから、やらしい事言わせたかったってのもあるんだけどね。」
「…………。」
やはり、謝るのは止めておこう。
とても癪だ。
「じゃ、じゃあ、挿れるからな……っ。」
「うん。」
頷くアルベルトの中に、そっと指を差し入れる。
「あ、あっ……ん、ロベルト……。」
「アル……!」
「そんな恐る恐る、しなくて……だい、じょうぶ……。」
「ん……わ、分かった……。」
アルベルトの言葉に従って、指を増やす。
ゆっくりと指を差し入れたり、出したりを繰り返すと、部屋の中に水音が響いた。
自分の時も、気付かなかっただけでこんな音がしていたのかと思うと羞恥で死んでしまうかと思った。
「ん、あっ……あ、ロベルト……!」
「こ、この辺……?」
内壁を探るようにして指で刺激する。
すると、ある一点だけアルベルトの反応が違った。
「そう、そこ……気持ちいいよ……。」
「そっか……。」
アルベルトの言葉を受けて、そこばかりを執拗に触れた。
「う……んっ、あ、ロベルト……!」
強く押すようにすると、アルベルトの体がビクリと跳ねた。
「あっ、あ、ロベルト……っ!」
一際高く、アルベルトが俺の名前を呼ぶ。
中に入れた指がぎゅっと締め付けられて、アルベルトが苦しそうな表情を浮かべた。
その表情に、思わずドキリと体の奥で燻っていたものが熱くなるような気持ちになった。
力の抜けきったアルベルトの体が、ベッドに横たわる。
「ん、ロベルト……好きだよ……。」
ベッドに伏せたままのアルベルトがにこりと笑う。
「オレも、好き……だ……。」
言って、そっとアルベルトに口付けた。
それに応えるアルベルトの表情にドキドキする。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
アルベルトの気持ちが何だか凄く分かってしまった。
か、書きあがった……!
もうこいつら、いちゃいちゃえろえろしてくれて、ホントどうしようかと思った……!
アマツカさんとチャットで話してた所も結構引用して仕上げてみました
しかし、ガチユリエロってこれでいいのか…………?^q^
甚だ疑問である^^^
とりあえず、書いてて一番恥ずかしかったのはテディベアのくだり
お前ら、この……バカップルめ……!
と、思った^^^^^^^