※性転換でアトワイト♂×シャルティエ♂というお話です
 閲覧の際はご注意を!





カツカツとリノリウムを鳴らす軽快な靴底がラディスロウの閑散とした廊下に響く。
冷たく乾燥した空気を震わせる足音が少し速度を上げてこちらへ近づいてきた。

「よう、シャル。」

後ろからかけられた、軽やかで通りのいい呼び声。
ぽんと肩を叩かれてシャルティエは後ろを振り返った。

「アトワイトっ……大佐……。」
「なに、その反応。」

一瞬戸惑って、それから結局敬称を付け足したシャルティエにアトワイトは奇妙な顔をした。
確かに、シャルティエとアトワイトとは所謂ところの幼馴染みというやつだったので、急に敬称なんてものをつけられたアトワイトの、その怪訝そうな反応も分からなくはない。
シャルティエは急にどうしたというのか。

「だって、今は仕事中だよディムロス中将の直下に配属されている僕が君を……貴方を呼び捨てにしては示しがつかないでしょう。」
「あちゃあ、すっかりディムロス中将の子飼いだな。」

失敗したという顔のアトワイトに小さく鼻を鳴らしてシャルティエは反抗する。

「結構ですよ。中将の犬だと最近では言われなれてきたところですから。」
「ハロルドか。」
「そんな所です。」

溜め息混じりにそう言ったアトワイトにシャルティエは小さく頷いてみせた。
アトワイトはまじまじと柘榴のような赤い瞳でじっとシャルティエを見据えると、その視界にかかった髪の毛をちょいと白い指先で摘まみ上げた。

「なんだよ、偉く懐いちまったなあ。」

開けた視界にアトワイトの顔が映り込む。

ああ、少し不機嫌そうだ。
アトワイトが目を微かに細めるのは機嫌が悪いときの癖だとシャルティエは知っていた。

「もしかして、もう師団長殿に食われちまったか?」

一瞬、理解が遅れてシャルティエは呆然と瞬きを繰り返したが、言葉の意味に気付いた途端に羞恥が込み上げたらしく色素の薄い頬をサッと耳まで赤く染めた。
そして、白銀の前髪を弄んだままのアトワイトの手のひらをばしっと払い落とす。

「は、はぁ!? 何言ってんの、馬鹿も休み休み言いなよね!」

アトワイトはひらひらと叩き落とされた手を振りながら笑う。

「敬語、抜けてるぜ。」
「……っ、どうもすみませんね。エックス大佐。」

途端に上機嫌になったアトワイトは飄々とした顔でそう言った。
シャルティエは唇をきゅっと噛んで付け焼き刃の敬語で答える。

「まあ、お前と師団長殿の間に何もないようでよかった。」
「あるわけないだろっ、このアホワイト!」

そう捨て台詞を吐いてアトワイトの体を押し退けると、シャルティエはさっさと廊下の向こうに消えてしまった。
やれやれと溜め息混じりにそれを見届けて、アトワイトは廊下の影に潜む人物に声をかける。

「おい、もう出てきてもいいぞ。」

通路の角を曲がってスッと足音もなく現れたのは一回り大きな白衣に身を包んだ、小柄な赤毛の男だった。

「覗き見なんて、随分いい趣味だな。ハロルド。」
「誰が好きこのんでこんなもん聞くかよ。アホワイト。」

ハロルドは呆れた声でそう言うと静かに歩き出し、脇に挟んでいたクリップボードでアトワイトの背を軽く叩いた。

「わざわざ気付かない振りしてくれちゃって……お前、案外人がいいよな。」
「やかましい。」

アトワイトは軽口を叩きながらシャルティエの去った方向をチラリと見遣る。
もう、過ぎ去った人の気配さえない廊下は寒々としてアトワイトを陰鬱な気持ちにさせた。

「鈍くて何よりだ。折角、小さい頃から可愛がってきたのにあんなんに手ぇ出されて溜まるか。」
「お前、苦労するなあ……。」

アトワイトに倣い、シャルティエが駆けていった廊下の向こうを眺めて、ハロルドは溜め息を吐いた。
さすがにそこまで鈍い筈はないだろうとハロルドは思ったが、シャルティエはアトワイトを拒絶も許容もしていなかった。
全くこれは難儀なことだと思ったが、ハロルドは敢えて口に出しては言わなかった。

「お前に同情されるとはねえ。」
「うるせえ。」

にやにやと笑みを浮かべて言うアトワイトの言葉がハロルドの心を抉る。
自らに返ってくる言葉は吐き棄てるべきではない。
ハロルドは小さく舌打ちした。

「まあ、お前の愛しの中将閣下ほど鈍くなくてよかったよ。」
「その口、閉じてろよ。しまいには縫っちまうぞ。」

図星を突かれたハロルドはじろりとアトワイトを睨みつけてそう言う。

「おいおい、それが医者に言う台詞かよ。」
「黙れ、藪。」

そう言って、ハロルドもアトワイトを置いて何処かへ去ってしまった。

ひとり、取り残された廊下はただただ薄ら寒い。
アトワイトは小さな笑みを浮かべると、上着の前を合わせ、さっさと暖かい職場へ戻ろうと少し足を早めて歩いた。










何でこんなことになったのかさっぱりわかりません……
うちのアトワイト君は男だろうと女だろうと取り敢えずシャルティエ大好きみたいです

なんでやねん