※女体化でアマツカさん宅の弟ハロルド(アルベルト)×拙宅の弟ハロルド(ロベルト)というお話です
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今日は、一段と寒い。
春を待つ陽射しは徐々に暖かさを増してきたが、それでも吹き付ける風は冷たい。
メタリックブルーの携帯電話をパチンと開いて、ロベルトはメール画面を開く。
悴む指先では、慣れた携帯電話もなかなか操作しづらい。
凍えた指先に一度、息を吹きかけてからロベルトはメールを認めた。
メールの相手はロベルトの恋人、アルベルトである。
To>アルベルト
件名>あのさー
本文>今度の十四日、でかけないか
何度も悩んでは書き直し、消しては推敲して漸く整えたのがたったこれだけの言葉だ。
それでもロベルトは内容に満足して、送信ボタンを押した。
アルベルトは自分と違ってメールをこまめに見る方だから、すぐに返信がくるだろう。
ロベルトは暫く携帯画面を眺めながら、左手に持ったスーパーの袋を握り直した。
白い息を吐き出しながら、返信が来るのが待ちきれなくてセンター問い合わせをする。
浮かれている自分は、とても馬鹿みたいだ。
知っている。
メールがなかったことに少し肩を落としながらもう一度センター問い合わせをしたところで、一件のメールが届いた。
勿論アルベルトからだった。
To>自分
件名>Re:あのさー
本文>えっ、ほんとー!(゜▽゜*)
いくいくー!(>▽<)
えへへー、ロベルトからデートに誘ってくれるなんて、アル嬉しい……っ!(´▽`*)
授業終わってから行く??(゜ω゜*)
アル、出かける前におめかししたいなあ~
大量に顔文字とデコメが使われた、らしすぎるメールの内容にアルベルトを感じてロベルトは小さく微笑んだ。
微笑みと共に漏れた吐息が周囲の空気を白く染める。
普段、自分から何処かへ出かけようなどとは滅多に誘わないロベルトだから、アルベルトが迷うことなくデートだと言い切ってくれたことに酷く安堵した。
いや、まあ、日付の所為でもあるだろうというのは、勿論否めないのだけれど。
三月十四日。
そう、ホワイトデーだ。
「ふふ……。」
ロベルトは、急いで返信を認めた。
To>アルベルト
件名>Re:Re:あのさー
本文>いや、朝から行こう
駅の北口にあるアトリウムの前に十時半集合で、どう?
つまり、これは、学校をサボろうと言っている訳で。
それは普段なら、本当に、ロベルトは絶対しないようなことだ。
送信しようとして、一瞬だけ躊躇う。
こんならしくないことを言って、変だとは思われないだろうか。
思われたら、どうしよう。
少しだけ、不安になる。
けれど、送らなければ自分は絶対に後悔するだろうということをロベルトは理解していた。
嫌になるほど、そういう自己分析は得意だった。
目を瞑って、勢いに任せて送信ボタンを押す。
「送った……送っちゃっ、た……!」
思わずその場で足を止める。
くっと下唇を噛み締め、携帯電話のディスプレイをじっと見つめた。
メールが来るのを待つ。
立ち止まっていることに意味はないが、動く気にもならない。なれない。
「あ、きた……。」
携帯のバイブレーションと共に訪れた返信。
授業は休めないから、と断られたらどうしよう。
それは至極当然なのだけれど。
Reと続く件名を見つめながら、暫く逡巡してゆっくりとボタンを押す。
パッと表示された画面にはアルベルトらしい言葉が並んでいた。
To>ロベルト
件名>Re:Re:Re:あのさー
本文>わかったっ!(゜▽゜*)
じゃあ、めいっぱいおめかししていくねー!><*
ロベルトとデートすっごい楽しみー(´▽`*)
断られなかったことにホッと溜め息を漏らしながら、ロベルトはビニール袋の中身に目を落とした。
大きなブロックのチョコレート、バニラエッセンス、アラザン、チョコペン、生クリーム。
そして、何より一番メインの、甘い、りんごの砂糖漬け。
「オレも、楽しみだよ……。」
マフラーに埋もれた口元から、か細い言葉が漏れる。
白い靄は、まるで初めからそんな言葉など存在しなかったかのようにすぐに大気に溶けてゆく。
これは、折角のバレンタインに泣かせてしまった恋人への贖罪と、そして、今度こそ自力で伝えなければならないロベルト自身の素直な気持ちだ。
ビニール袋に詰まった重みに充足感を覚えて、ロベルトは足取りも軽く真っ直ぐに家路を進んだ。
遅刻ホワイトデー!